硬質な抒情
ここのところ池澤夏樹の本を何冊か読んでいる。
「スティル・ライフ(これは再読)」「骨は珊瑚、目は真珠」「ハワイイ
紀行」など。池澤の作品はどれも硬質な抒情が感じられるものばかりだ。
僕はこういう「抒情性」に昔から弱い。
例えば柴田翔とか堀辰雄とか中島敦(全部古いですね ^^;)とか。
例えば川端康成なら「美しさと哀しみと」なんて作品は、世の評価は非常
に低いのだが、その抒情性と文章の美しさだけで気に入っている作品です。
(硬質とは言い難いけれど)。
それにしても「スティル・ライフ」は大のお気に入りだ。何度読んでも
その視点と卓抜な表現とそこから生み出される抒情性に心打たれる。
現実の生臭さがまったくないのもいい。
よく引き合いに出される文章だけれど、一部抜粋。
音もなく限りなく降ってくる雪を見ているうちに、雪が降ってくるのでは
ないことに気付いた。その知覚は一瞬にしてぼくの意識を捉えた。
目の前で何かが輝いたようにぼくははっとした。雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の
方が上へ上へと昇っているのだ。静かに、滑らかに、着実に世界は上昇を
続けていた。ぼくはその世界の真ん中に置かれた岩に坐っていた。岩が
昇り、海の全部が、厖大な量の水のすべてが、波一つ立てずに昇り、それ
を見るぼくが昇っている。雪はその限りない上昇の指標でしかなかった。
誰の作品だったか忘れたけれど、東に伸びる岬の先に立ち海風を受けて
いると、自分が自転する地球のへさきで波を切って進んでいるように
思える、というのがあった(小説か?詩か?)。
それにも共通する独特の感性だと思う。
- 作者: 池澤夏樹
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/12/10
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