風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

スタンダールの「恋愛論」

久しぶりに「これは!」と思うような本に出会うことができてとても嬉しい。
池澤夏樹の『世界文学を読みほどく〜スタンダールからピンチョンまで』という
本。
もっとも、本といっても池澤氏が京大文学部の集中講義で話した内容をまとめた
ものだ。
こんな面白い講義を聴いて単位が貰えるなんて、京大生が羨ましい。
とにかく「読み進むのが惜しい。読み終わってしまうから」という感覚、わかって
もらえるでしょうか?
とにかくどこを読んでも刺激的で面白くてしょうがないのだ。

世界文学を読みほどく (新潮選書)

世界文学を読みほどく (新潮選書)

さて、恋愛論とこの本がどういう関連があるの?というと、中でスタンダール
パルムの僧院」が取り上げられているのだが、その同じ章に「恋愛論」の話が
引き合いに出されていたのだ。
僕がスタンダールの恋愛論を読んだのはもうずっとずっと昔、青春時代のこと
であって(笑)もうすっかり内容も忘れてしまっていた。池澤氏の文章を読んで、
ああ、確かにこんな内容だったな、と思い出した次第。
いまどきこんなクラシックな恋愛論を読まれる方も少ないと思うので、面白い
エッセンス部分を紹介しておきます。

この恋愛論でもっぱら有名なのは「結晶作用」という言葉でこれには二種類ある。
第一の結晶作用は、日本でいう「恋は盲目」または「あばたもエクボ」という
もの。これは気になる相手の全てを美化してしまうという心理の動き。
次に第二の結晶作用があって、第一の結晶作用を乗り越えると「自分は本当に
相手を愛しているのか?本当に愛されているのか?」という疑惑と「そうだ!
間違いなく相手を愛している(愛されている)!」という確信が交互に訪れる
ことによって、さらに結晶化が進む、というもの。
スタンダールはこれを含む恋の進行過程を7つの段階に分けて書いている
(ここでは省略)。

さらにスタンダールは恋愛を4つに分類している。

【引用始まり】 ---
情熱恋愛:絶望や死を伴うことすらある、己の全存在を賭けての恋。

趣味恋愛:遊びとしての恋。なびくかどうか口説いてみよう、から始まって
      最後までゲームの範囲に終始する楽しみとしての恋愛。
      スタンダールは「冷たい細密画のような恋」としています。

肉体的恋愛:文字通り、肉体的快楽を求める恋愛

虚栄恋愛:周囲から見て格好いい、素敵!と思われるような相手を恋人に
      持って自尊心を満足させるための恋愛。他者に見せびらかすため
      の恋愛。
【引用終わり】 ---

この分類はなかなか秀逸で、現代の恋愛も大半はこの4つに分類できるのでは
ないか。もちろん、ある場合は「趣味恋愛」→「情熱恋愛」に移ることがあった
り、「虚栄恋愛」→「肉体的恋愛」に変化したりすることもあろう。
また片方が「情熱恋愛」と捉えているのに相方は「その他の恋愛」であった
場合、悲劇が起こることもあるだろう。
ちなみに「恋愛こそが人生最大の目的」と言い切っていた恋愛至上主義者の
スタンダールだったが、彼が最終的に唯一真実の恋愛として認めたのは最初の
「情熱恋愛」だった。
現代では、この4つは全て「恋」という単語でひとくくりにされているようだが。

ネットを彷徨していると、いろいろな人たちが熱心に自らの恋愛論を展開して
いるのにぶつかる。自らが関わっているが故に真摯に考えようという姿に、
読んでいて胸を打たれることもある。
しかし(哲学にしても思想にしてもそうだが)人間は何千年も同じようなことを
繰り返しているので、こういう古典をに一度目を通してみるのもヒント(答えは
各自が探すものだ)を得るのにはいいかもしれない。
文庫なので入手も簡単で値段も安いです。

恋愛論 上 (岩波文庫 赤 526-1)

恋愛論 上 (岩波文庫 赤 526-1)