風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

驚愕のピアニスト グレゴリー・ソコロフ

YouTubeには「次の動画を再生したため、おすすめします」と言って、トップページ
で僕の好きそうな動画を勧めてくる機能がある。そのお勧めで何気なくクリックした
動画に僕は釘付けになった。
不勉強にして今まで全く知らなかった驚愕のピアニストと突然遭遇したからである。

その名前はグレゴリー・ソコロフ。
僕が見たYouTube動画はこちら。
二時間以上のリサイタルのほぼ全部が収められている。

こちらは抜粋版(宣伝用であろう)。

プログラムは:
 ベートーヴェンピアノソナタ第9番、第10番、第15番(いわゆる田園ソナタ
 コミタス:ピアノのための6つの舞曲
 プロコフィエフピアノソナタ第7番(戦争ソナタ
アンコールでショパンマズルカ2曲、クープランを2曲弾いている。

最初のベートーヴェンの9番、10番は学習用ソナタという理解でコンサートであまり
弾かれることもなく、僕の意識の中でも存在感の薄かったソナタだが、ソコロフの
演奏はとにかく素晴らしい。そのダイナミズム、音の美しさ、考え抜かれた解釈。
この二曲で僕はもうPCの画面に釘付けになってしまった。
田園ソナタ(30:35から)もその点はまったく変わらず、ゆっくりしたテンポで
紡ぎ出される丁寧できめ細かく深い叙情性がとても印象的である。
(これまで聴いたどの田園ソナタよりも素晴らしいと思った。特に32:23からの
ニ長調ならではのざらざらした暖かい手触り感!日の当たる川岸が目に浮かぶ。)

コミタスの曲(1:00:15から)は僕は初めて聴くが、叙情性に富んだ美しい旋律が
印象的だ。ここでも、ソコロフの素晴らしいテクニック(単に速く正確に弾くと
いうことではなく、ひとつひとつの音の響き、強弱、音質が吟味されている)が
よくわかる。ここまで技術と感性、知性がひとつになったピアニストがいるのに
これまで知らなかったとは!

さらにプログラムのトリを飾るプロコフィエフの戦争ソナタ(1:21:20から)は
もうとにかく凄いとしか言いようがない。
この超難曲をやすやすと弾きこなすのみならず、全ての音が完全に鳴り切っている
上に、響きにまったく濁りがない。
特に第三楽章は凄まじい。(1:38:55から、抜粋版では2:48から)
僕もこの楽章を弾いたことがあるのだが、ソコロフのように手を鍵盤から振り上げて、
かつ全ての音をミスなく弾くなんてのは、到底人間業とは思えない。
ただ、手を鍵盤から離してスピードをつけて打鍵するからこれだけクリアでシャープ
な音が出るし、和音の構成音にばらつきが出ず(ほぼ同時打鍵できる)、加えて
ダイナミズムをつけることもできるのだが。
全く、若い頃のポリーニを彷彿とさせる「大理石の石柱のような音」だ。

ネット情報ではどうも西欧以外では演奏会をすることはなく来日は望み薄とのこと。
なんとかライブで聴いてみたいのだが、欧州に行く以外、手はないのだろうか。
それにしても凄いピアニストがいたものだ。