風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

スポーツと構造主義

何を隠そう僕はサッカーファンなのだけれど、今年、NHKのJリーグサッカー
中継に、昨年までアルビレックス新潟の監督をしていた反町康治氏が解説者として
加わった。実は昨年、新潟の監督をしていた時、試合中あるいは試合後のコメント
を聞いて、この人はなかなかの監督だ、と思っていたので解説を楽しみにしていた。
ゲームの解説を聞いてみて、声が大きくなくて聞き取りにくいという面はあるものの、
非常に本質的でサッカーのゲームマネジメントに直結する貴重なコメントが多く、
すごく楽しめた ^^
コアなサッカーファンが聞きたい解説とはこういう解説ではないのか、と思う。
それに引き替え、野球中継の解説は、、、、ちょっとねぇ(苦笑)

野球にせよサッカーにせよ、僕が実にくだらない、と思うのはこういう解説だ。
「誰それはちょっと疲れているようで、調子が出ませんね」
「こんなところでミスをしちゃいけませんよ〜」
「ここは気合いを入れていかないとね」
「点を取らないといけないから、ここはフォワード交代(あるいは代打)ですよ」

サッカーに限らず多くのひとたちが依然として「個々の集合・力の加算がチームで
ある」と誤解している。
つまり「要素還元主義」なのだ。
マスコミもそう考えているから、負けたらいわゆる「戦犯」というものが存在するし、
「わかりやすい敗因」が特定できると勘違いしている。
あらゆるチームスポーツ、いや、あらゆるチームマネジメントは「構造主義的」で
なければ実際は機能しないにも関わらず。

ここで改めて簡単に整理しておくと「要素還元主義」とはあらゆる複雑な「構成・
過程は単純な要素の組合せで成っており、各要素の加算で全体は構成される」という
考え方だけれども、「構造主義」とは「それぞれの構成要素間の諸関係の束で全体が
構成される(それも加算ではなくフーリエ積分的な重ね合わせによって)」という
考え方だ。

話がヤヤコシクなったのでサッカーの例で述べてみよう。
例えば、攻撃がうまく機能しない、とする。
「要素還元主義」に基づく采配では、単純に攻撃要素であるフォワード、トップ下
などの選手を入れ替えて各要素を強化して条件を変えようとしたりする。
(あくまで一例)。

しかし構造主義的に分析するとどうなるか。
なぜ「攻撃」がうまくいかないかは「全体」がかかわっている、とまず考える。
例えば、実のところ「守備」がうまくいっておらず、チーム全体が守備の破綻を
恐れて前に行きたくても行けない心理的状況に陥っていることが「攻撃」を機能
させない原因かもしれないのだ。
よくあるのは守備が一度破綻したことによる「心理的デフレスパイラル」とでも
言うべきネガティブイメージをチーム構成員が持ってしまい、リスクを冒した攻撃
に出ていけなくなるようなケースだ。
そういう場合はむしろ守備の選手を交代したり、フォーメーションを変えること
で劇的に攻撃が改善されることがある。
このように、あらゆる要素が全体に繋がっており「戦犯」や「敗因」は構成要素の
一つや二つに特定できないようなことがごく普通なのだ。

これは別にサッカーに限らない。
チームで行う仕事は当然ながら全て同じことだ。
製品が売れないのは売ってこない営業に責任がある、と考えて営業マンの尻をひた
すら叩くのは馬鹿な管理職のやることで、実は売りたくても心理的に売りにくい要素
が、実は在庫管理体制にあったり製品のサポート体制にあったりすることはごくごく
普通だ。あるいは人事施策的な部分が営業マンの「心理的デフレスパイラル」を起こ
していることだって多々ある。
「マネージャー」とは「manageする人」ということで「manage」とは「なんとかかんとか
どうにかする」という意味合いを持つ。
サッカー監督と同じで「構成要素の叱咤激励」で済む仕事ではなく、既存の余条件の
中で「構造的諸関係」の勘所を一つ二つ修正することで全体のバランスと効率を劇的
に修正することが求められる職種なのだ。まぁ今時「客に突撃しろ!」の一点張りの
馬鹿管理職はさすがに少ないとは思うが。
それにしても、野球解説はそういうレベルとあまりグレードの変わらないものが多い
のは何故なのだろう?

反町氏の解説からは、彼がサッカーという競技を「構造主義的」に捉えていることが
きちんと伝わってきた。今の若い世代のサッカー監督は皆、チームマネジメントに
ついての教育(組織論、心理学などなど)を受けてきており、そういう意味では、
(失礼ながら)野球の解説者達のような耳を疑うような愚劣なコメントは少ない。
人ごとながらなんとかしないと長期的にはまずいのではないか>野球。
まぁともかく、あれこれ言いながらも今年もスポーツ解説を、若干意地悪な気分も
持ちつつ楽しむことにしたいと思っている ^^