風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

岡田武史の心のうち

ある時期、岡田武史サッカー日本代表監督)という人物に興味を惹かれて、当時絶版に
なっていた彼の書いた本(「蹴球日記」)を古本屋で探してまで読んだことがある。
僕はサッカーは結構好きだけれど、岡田氏に興味を持ったのは彼のサッカーそのもの
に興味があったからではない。
組織のリーダーとしてのスタンス、考え方に興味を覚えたのだ。


僕は営業という仕事で組織のリーダーの立場にあるのだが、組織をどう運営するか、
という点でスポーツ組織のリーダーの言動には非常に関心を持っている。
だからサッカーに限らず、野球、ラグビーなど、団体競技の監督やコーチの書いた本は
良く読むし、スポーツ雑誌も目を通す。そんな中で、サッカーは特に営業の仕事と共通
項が多いと感じ(不確実性が高く、運や偶然に左右される割合が大きい。組織構成員の
モチベーションやメンタルが結果を大きく左右する、等々)サッカー監督の談話は特に
参考になることが多い。人事コンサルタントが書いた組織論などよりも余程実戦的で、
現場の知恵に満ちており、考えさせられる。何しろ、サッカー監督たちは日々、自分の
首を賭けて組織運営に当たっているのだから。
(ついでに言うと昨今の人事コンサルたちの組織運営論のトレンドである「コーチング」
 理論には僕は大いに疑問を持っている)


閑話休題
岡田氏を知るにつけ、岡田氏は僕とこういう点で共通項がある、と感じていた。
・理詰めで物事を考える傾向がある。
・一方最後のところでは、自分の直感でリスキーでドラスティックな決断をする。
・常にテストし試行錯誤する(実験主義者であり、机上論で物事を進めない)。
・ドリーマー(夢想家)であるが、一方でリアリスト(現実主義者)でもある。


このような特徴は1998年のワールドカップ(フランス大会)で日本代表を率いた時も
そうであったし、Jリーグコンサドーレ札幌を率いた時も、横浜Fマリノスを率いた
時も同じであったし、果たして今回のワールドカップでも全く同じであった。
人とは変わらないものだ。
例えば「ベスト4」「世界を驚かすサッカー」という彼の掲げた目標であるが、これは
岡田のドリーマーとしての面目躍如な部分である。このように「一見無理と思われる
ような高い目標を掲げる」ことは一般的な組織活性化論の「いろはのい」であって、
これに対して日本のマスコミやら評論家やらサポーターが「現実的でない」と声を
揃えて反発したのには、正直驚いた。組織活性化論、リーダー論の教科書を読んで
いれば、岡田氏が「目標ベスト4」と宣言したことは教科書通りの定石とわかるはず
なのだが。
それともサッカーファンはそういう本は読まないのか?


ともあれ、僕の仕事でもサッカー同様に、理詰めで考えた結果だけを頼りに決断しても
うまくいかない。最後の決断はどうしても自分の直感を信じるしかない部分がある。
何故かというと、営業の仕事もサッカーも普天間問題と同様「変数」が多すぎる
のである。方程式でも少し次数が増えれば解析的には解けない訳だから当たり前だ。
物事の決断においては理詰めから直感に切り替える部分、ドリーマーがリアリストに
変わらざるを得ない部分が必ず出てくる。
リーダーがずっとドリーマーのままだと、現実に直面した組織は崩壊する。
リーダーが早くにリアリストに切り替わると、組織は伸びしろを失う。
この微妙なあわいの領域にもっとも重要で決定的な何かがある。
僕はそれを知りたい。


今回の日本代表チームはベスト16に進出したが、岡田氏はドリーマーとしての顔を
直前の親善試合の結果を受けてかなぐり捨てて、リアリストになって勝ち抜いた。
代表監督は勝利を得ることがサッカー協会から与えられたミッションである以上、
それを達成することが第一義的に重要であり、どんなに美しいサッカーをしても負ける
ことは許されない。
ただ、ドリーマーとしての岡田氏は「美しく独自性のある自分のサッカーで勝ちたい」
と思っていたはずだ。
ドリーマーとしての顔をかなぐり捨てる時の辛さ、そして無念の思い。
1次リーグを勝ちぬいたとはいえ、心の中にはそれがあるはずだ。
岡田氏同様、リアリストになりきれない僕にはそう思えるし、共感を禁じ得ない。