風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

鳩山首相辞任に思う

鳩山氏が辞任し菅直人氏が新総理となった。
メディアは皆、鳩山は馬鹿だった、無能だった、と罵っているが、どうなのだろうか?
僕が思うに、政治家としてバランス感覚に少々問題はあったものの、そこまで罵倒される
べき総理大臣だったとは思っていない。政治と金の問題にしても、基地問題にしても現実
的な進め方の段取りの悪さがあったことは否定できないけれども、理念の部分においては
評価に値するものがあったと思っている。


辞任を表明した2日の演説を新聞で読んだが、実に素晴らしい内容の演説だった。
これほどの内容の演説はちょっと日本人の政治家では記憶にないほどである。
率直で飾り気や衒いがなく、人間として誠実で志高い人であることがよくわかる。
あっ、と思ったのはアメリカとの関係を語った次のくだりだ。


【引用始まり】 ---
私はつまるところ、日本の平和は日本人自身が作り上げていくときをいつかは
求めなきゃならないと思っている。米国に依存し続ける安全保障、これから
50年、100年続けていいとは思わない。鳩山がなんとしても、少しでも
県外にと思ってきたその思いをご理解願えればと思っている。その中に、
私は今回の普天間の本質が宿っていると思っている。
 いつか、私の時代は無理だが、あなた方の時代に、日本の平和をもっと
日本人自身でしっかりと見つめていくことが出来るような、そんな環境を
つくること。現在の日米の、同盟の重要性はいうまでもないが、一方で
そのことも模索していただきたい。
【引用終わり】 ---


なんとか県外に、できれば国外に、という迷走した言葉の奥には『米国に頼らない安全
保障の枠組みの構築とそれへの緩やかな移行』という大きな目標があり、そこに近づける
ための行動(成功したとは言えなかったが)であったことがわかる。
これは総理在任中は口にできなかった本音であろうが、立派な見識であると思う。
基地問題は墜落危険性や騒音などのレベルだけで語ってはいけないし『日米安保は永遠
で、日本の領土内に米軍が駐留するのは常識だし当たり前』といった近視眼的な見方
(メディアや他党政治家などにも多い)に較べると、政治的・歴史的パースペクティブ
遙かに広く深い。


ただ政治とはカール・シュミットが古典中の古典「政治的なものの概念」で述べた通り、
その本質は「国外および国内の敵に対する生殺与奪権」であり「真の政治理論は全て
人間を悪なるものと前提する」のである。鳩山首相にはこの残酷なリアリズムにおいて
能力・手腕ともに万全とは言い難かったことは否定できないかもしれないが、逆に、
リアリズムに徹底するとこんどは理想を全否定するしかなくなる。
この難しい隘路を過たず進むことはどんな才能に富んだ政治家にとっても難問であるし、
僕には正直なところ「鳩山氏は無理でも○○氏ならちゃんとやれるはず」という代案を
思いつかない。(メディアも鳩山氏の個人攻撃はするがこの代案を出してはいない)


思えば小沢一郎という政治家は、徹底的にカール・シュミットの教科書に忠実に政治を
行う権力闘争のリアリズムに徹底した政治家で、サッカーで言えばがちがちに泥臭く
守りを固めてカウンター一本で蜂の一差しで勝利を収める「勝てば官軍」型であるのに
対し、鳩山由紀夫という政治家は理想のフォーメーションと戦術を追い求める理想家肌
の指揮官(しかし勝率は悪い)なのだろう。
政治にしても、サッカーにしても、会社にしても、指揮官とは難しいものである。


政治的なものの概念

政治的なものの概念