最近読んだ本
仕事本の読書に追われて、楽しみの読書に割く時間がないことが哀しい。
そんな中でも、つまみ食い的に読んだものがいくつか。
梅棹忠夫「夜はまだ明けぬか」
急に失明したとき、人はどういう心理状態になるのか、そこから立ち直ってゆく過程に
興味があって読んだが、正直今ひとつ、深い心理状態にスポットが当たっていない気が
した。「知的生産の技術」は昔々読んで面白いと思ったけれど(当たり前であるが)
この人は理科系だな、と改めて思った。
残念である。
辻原登「熊野でプルーストを読む」
これは面白かった。本読みの人にはたまらない本である。本読みでない人には実に
つまらない本だろう。
本読みならば、紹介されている本のいくつかを読みたくなること請け合いである。
ブーニンやショーシャなど、読んだことのない作家の作品を、いつか読んでみたい。
三田誠広「実存と構造」
僕は実存主義と構造主義は対立するものとは思っておらず、双方とも自分の生きる指針
として極めて重要と常々考えているので、こういう題名の新書を見て反射的に買って
しまった。まぁなんというか、思考の深さが足らない、と言う意味で大いにもの足らなく
思ったが、考えてみたら、それは勝手に僕が自身の勝手な希望を本に投影しただけの
ことである。ただ大江健三郎や中上健次の本が構造主義文学として紹介されていて、
中上健次の本を読んだことがない僕は多いに食指をそそられ、「岬」を注文した。
藻谷浩介「デフレの正体」
著者は人口動態の波で現在の日本の経済状況は説明がつく、という。
ふうん、なるほど、と感じである。マクロ経済学をきちんと勉強したことのない
僕には大変わかりやすいもっともな説明と感じたが、あちこちの経済学徒から凄まじい
批判と非難を浴びせられている由。
専門家でないと判らない陥穽があるのだろうか。
エマニュエル・トッド「帝国以後」
人口動態論なら、なんといってもこの本が話題だったな、ということで注文。
今、読んでいる所だが、識字率の向上→女性の受胎調節の増加→民主化への機運、と
いう「風吹きゃ桶屋が儲かる」的切り口であるが、これもわかりやすい。
しかし、専門家でない僕にはその当否を判断することはできない。
面白かった一文
もちろんすべての人類学的システムが同じやり方で民主主義的個人主義
の伸張に対処するわけではない。そんなことができるはずはない。
自由という価値は、アングロ・サクソンとフランスを初めとするいくつか
のシステムにとっては、家族という土台に刻まれた、元からあるものである。
歴史の動きは、その表現の形式化・急進化をもたらすにすぎない。
ドイツ、日本、ロシア、中国、ないしはアラブのシステムの場合、個人主義
の勢力伸張は当初の人類学的価値のあるものに攻撃を加えることになる。
移行期過程の暴力がより激しくなり、また到達点においていくつかの差異が
残るのは、そのためである。出発点においてこれらのシステムの特徴を
なしていた権威ないしは共同体の価値は、緩和されるが、完全に無に
なるわけではない。人口学的移行が終わったあとの、鎮静化された世界の
民主主義の類型の間に差異が観察されるのは、このようにして説明する
ことができる。
内田樹「他者と死者 ラカンによるレヴィナス」
まだ途中であるが、大変面白い。
今はまだ前半の他者についての部分を読んでいるが、「学び」ということに
ついて既にいろいろ考えさせられている。読み終わるのが惜しく、少しずつ
読んでいる次第。