風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

「逃げていく街」

「逃げていく街」。
山田太一のエッセイ集である。

逃げていく街 (新潮文庫)

逃げていく街 (新潮文庫)

彼のテレビドラマはいくつか見たことがあるけれど、登場人物のセリフが
あまりにも理性的であろうとしているように感じて、どうしても感情移入
ができなかった。だいたい家族間の会話で
「それはそうだけど」(←このセリフ、実に多く出てくる)
なんて言うものだろうか?
しかし、本になったものを読むと共感もするし、自分に非常に近い感性を
感じる。

最初から話はずれるけど、不倫の恋をしている人には「丘の上の向日葵」
は必読ではないか、と思う。僕は以前、これを読んで山田太一はすごい、
と思った。当人同士の恋愛感情にとどまらず、家族(妻、子供)の揺れ動
く心情が、緻密にリアリティをもって描かれている。
そして、その恋が終わった後の家族の思いまでも。

「逃げてゆく街」の中の「抑制と情事 -丘の上の向日葵- 」に興味深い
告白がなされている。山田太一は当初、主人公の男女二人は「性的な異性
意識を登場人物たちが意志的に克服して、おだやかな友人関係をつくる」
予定で書いていたそうだ。それが書いているうちに「抑制し合うはずの
人物たちが、情事に走ってしまった」とのこと。
まぁ、興味がある方は「丘の上の向日葵」も、ぜひ読んでみて下さい。
文庫本になっています。

丘の上の向日葵 (新潮文庫)

丘の上の向日葵 (新潮文庫)

さて「逃げてゆく街」のほうだけれど、こちらも実に滋味深いエッセイだ。
どのエッセイを取ってもううむ、と唸るような言葉に満ちている。
ホームドラマにおけるテレビと映画」というエッセイ、実に深く面白い。
橋田壽賀子エリック・サティ」なんて文章を即、書きたくなってしま
ったではないか。実に質の高い論考だと思う。
それから、なんといっても最後の「男・女・家族」が素晴らしい。
平明な言葉で書かれているが、内容は実に深い。
結婚とは?性とは?家族とは?いろいろなことを考えさせられるのだ。

山田太一河合隼雄に興味があるようで、盛んに河合の著書から引用して
いる。僕が好きな村上春樹河合隼雄と対談などしていて、非常に興味を
感じているようだ。僕も実のところ、河合隼雄には興味があってよく読ん
でいる。ということで、結局、趣味の似た者は同じような人に興味を持つ
らしい、ということなのか。