風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

もっと柔らかく、よりしなやかに

子会社の役員としてその会社のマネジメントに関わるようになってから、
マネジメントのスタイルについて改めて考え直している。僕の部下たち
への接し方、マネジメントのスタイルはここ数年で劇的に変わってきた
と思うのだが、改めて今の子会社社長たちのマネジメントのスタイル
(それはかつての僕のスタイルに近い)と対比するとよりその違いが
鮮明に浮かび上がってくる。

以前、そう、事業部長をしていたころまでの自分は、その部署の仕事は他の
誰よりも深く把握し理解していると思い、そのスタンスで部下に接していた
と思う。もちろん実務は基本的には彼らにやってもらうわけなのだが、最後
の最後には「お前たちが(能力不足で)出来ないのなら僕が自分自身が出て
いって手を下してやりとげる」というスタイルだったと思う。
そのときの僕の理屈は「だって結果責任は僕が取らなきゃならないのだから、
そうするのが当たり前だろ」だった。

しかし、役員になって自分が全く知らない業界、事業、客先、部下を管掌
監督をせねばならない立場になり、僕のスタイルはがらっと変わった。
僕よりも僕の部下たちのほうが、その業界、その事業、そこの客先を知って
いて、僕は彼らから教えて貰わないと何も理解できない。いや、正確に言えば
「教えてもらったって彼らの域には達しないし、彼らの域に達することが
僕の仕事じゃない」のだ。そんな状況だと必然的にマネジメント・スタイル
は二択になる。一つ目は「結果数字を見てはっぱをかけ尻を叩く」という
昭和高度成長式マネジメント。もうひとつは「部下を信頼するマネジメント」
である。僕は後者を選び、今はひたすら「君たちはこの世界のプロなんだから
信頼している。僕が君たちの替りは出来ないけど、君たちと一緒に『こんな
世界』に到達したいから、一刻も早くそこに達するために、より効率的に、
気持ちよく働けるような仕組みを作るお手伝いをしたい」という形を取って
いる。

このような形のマネジメント・スタイルで接すると、面白いもので部下は
ぐっと急速に力を伸ばしてきた。人は信頼してあげることでこんなにも
変わり、目を輝かせ、力を出してくれるものなのか、と瞠目する思いだ。
そこで大切なのは「表面的な信頼」や「信頼したフリ」ではなくて「心の
底からの信頼」が必要だ、ということも強く感じた。「相手をコントロール
しよう」という上っ面なものでは見透かされる。本当に僕自身が「こいつら、
本当にたいしたもんだ。偉いなぁ」と心底感心してないと駄目なのだ。

思えば、事業部長時代まで僕が見てきた部署(僕の出身部署)の部下たちは
残念なことに力を伸ばしてやれなかった。僕は傲慢にも彼らを「見下してい
た」のだと思う。「どうせ、お前たちではちゃんと僕みたいに出来ないだろ」
と。そんな傲慢な僕の思いは彼らにもビンビン伝わったに違いない。
本当に彼らに悪いことをしたし、気の毒なことをした、と今、思う。
今も僕は彼らの部署を管掌しており、他の部署と同じ「信頼のマネジメント」
で接しようとしているけれど、彼らのほうは僕の変化を信じていない。
「どうせケチをつけられるんだろ」「ウルサイ人がどう言うか、どう思うか
が何より大事だ」みたいな顔色を伺う彼らのスタンスは見ずにいようとしても、
見えてしまう。これは完全に僕の失敗である。

思えば事業部長時代までの僕のマネジメントスタイルでは、その部署は「僕の
力」一杯までしか、どう頑張っても伸びない。しかし「信頼のマネジメント」
なら、僕ひとりの力を遥かに突き抜けた領域に伸びてゆく可能性がある。
このことを僕は子会社の社長に伝えたい(彼のスタイルは僕の事業部長時代
のスタイルだから)。自分自身の力を超えてもっと会社を伸ばしてゆくため
には、社員を心の底から信頼するしか道はないのだ、ということを。
もっと柔らかく、よりしなやかな信頼のマネジメントに変わらなくては、と。