風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

心が、痛い

僕は今や会社の中で、恐れられ、憎まれる存在になった。
部下も、他の部署の人達も皆、僕を恐れ、びびっている。
僕が組織改革のタクトを振り始めたからだ。


僕の始めた組織改革に対して部下たちが必死で申し述べる、彼らの「心情倫理」。
彼らは言う。
「僕は金ではなく、出世のためでもなく、この仕事そのものに生き甲斐を感じ、
 この仕事の先行きを見届けたく、どうしても引き続き担当させてもらいたい」
僕は言う。
「君の気持ちはわかるが、会社にはもっと大きなミッションがある。
 それは、利害関係者へのリターンを等しく中長期的に最大化することだ。
 株主は配当と株価上昇を通じて彼らの投資のリターンを得る。
 会社自身は内部留保を通じて自身の安定性と新しい投資の原資を得る。
 さらに、君たちの給料を少しでも多く出し、福利厚生を充実させることで
 社員へのリターンも最大化しなくてはならない。
 さらに企業には、税金を払うことを通して社会に貢献する役割もある。
 これらに必要な原資を最大化するためには、会社組織を適正化する必要がある。
 君個人の利益を優先するために、今回の組織改革を止めることはできない」
部下「つまり、この異動を受け入れないのなら辞めろ、ということですか」
僕 「端的に言うとそういうことになる。異動は会社命令だ。」


僕は常に自分に問う。
「私心、なかりしか」
私心はない、と思う。
僕には社員に言うことができない、もっと本質の思いがある。
それは「株主は実に残酷だ」ということだ。
余裕がある間は「社員を大事にする経営」と言っているが、余裕がなくなると
彼らはいとも簡単にリストラを要求することだろう。
社員利益を踏みにじっても株主利益を最大化するために。
そのためには、会社の組織と規模と収益構造を最適化し続ける必要がある。
そして、いつも余裕がある会社状況にしておく必要がある。
そのためには、僕は一時的な痛みを社員に求めることも、自分が憎まれ嫌われる
ことも逡巡しない覚悟だ。


僕がマネジメントに関わっている間に絶対にしなければならないことがあると
したら、たった二つだけ。
ひとつは、リストラのような社員にとって最悪の状況を防ぐこと。
もうひとつは、部下たちに最悪の事態でも生き残れるような個としての能力
を身につけさせるプログラムを作り、実行すること。


しかし、それにしても、この心の苦しさはどうなのか。
権力がもたらす甘い味については、すでに日記帳のほうに書いたけれど、
その甘い味が魅力的に思えない僕にとっては、ひたすら苦しいだけだ。
こんな苦しさがいつまで続くのだろうか。