風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

一人暮らしをしたことがない

僕は一人暮らしをしたことがない。
学生時代、そして就職してから結婚するまでずっと僕は実家で両親と暮らして
いた。結婚してからは奥さんと一緒。
単身赴任の経験もないからずっと誰かと一緒に暮らしてきたのだ。
こういう人はそれほど珍しくないのかどうかわからないけれど、僕自身はこれを
自分にとっての『欠損』と感じることがある。

誰も待っていない一人の部屋へ帰る気持ち。
それが毎日毎日続く気持ち。
僕はそういう気持ちがたぶん、わからない。
もちろん出張などで家をあけることはずいぶんある(事実この文章もホテルの
部屋で打っている ^^;)。しかしそれはあくまで「出張」であって「暮らし」
ではない。
僕には家族が待っている自宅があるのだから。

そんなことを思いながら本屋で本を眺めていたら強烈に僕に「読んでほしい」と
訴えてくる本があった。
それは「そして私は一人になった」という本。
著者は山本文緒だ。
僕はそれを買い求め、一気に読んでしまった。

この本は山本文緒が離婚してから一人暮らしをしはじめてから1年間の日記だ。
何も大きな出来事が起きるわけでもなく、淡々と流れる日々。
それでも面白く(一人暮らしの女性の日々の心の中をのぞき見る、というような
興味があったことも否定できないが ^^;)興味深かった。
印象に残った一節を抜き書きしてみよう。

【引用始まり】 ---
 今の生活が快適かと尋ねられたら、私はとりあえずイエスと答えるだろう。
 でも自分で望んで一人でいるのに、一抹の虚しさと不安を感じる時がある。
 誰か男の人と恋愛をして、それが実って結婚しても、そのぽっかり空いた
部分が埋まることはないのだということはもう既に分かっている。
 では仕事によってそれが解消されるかというとそうでもない。
 今はわりと仕事もうまくいっていて、この調子で頑張っていこうというところ
で、すごく真剣に悩んでいることもなく、家族も私も健康で、そんなに多くない
けれど親しい友人もいるし、楽しみにしていることもいっぱいある。
 なのに、夜眠る前に部屋の電気を消したとき襲ってくる心細さはなんだろう。
 このままずっと一人きりなのかもしれないと漠然と不安になる。
 やる気の出ない一日に、ただテレビを眺めているだけで日が暮れてしまうよう
に、ただぼんやりしている間に一生が終わってしまうような気がしてしまう時が
ある。何事も成さないまま、本当に欲しいものが手にはいらないまま(その前
に本当に欲しいものが何だか分からないまま)、死んでしまうような気がして
いてもたってもいられない時がある。
【引用終わり】 ---

そうなのかもしれないなぁ、と僕は本を閉じてため息をつく。
僕の脳裏から一緒に住んでいた父母のこと、住んでいる奥さんのこと、つまり
家族のことが消えたことは一度もないような気がする。僕は彼らがいるから
頑張りジョークを飛ばし元気なふりをしているのかもしれない。
もしもそういうものと切り離されて「さあ、これからは一人で君は自由だよ」
と投げ出されら、僕はやっぱり漠然と心細く不安を感じるのだろう。
もともと僕は寂しがり屋で一人ぼっちは好きなほうではないし ^^;

それでも経験として一度は一人暮らしもしてみるべきなのかもしれない。
まぁでもまだ人生は長い。
これからそういう機会が否応無しにやってくることだっておおいに考えられる。
あまり歓迎すべきことではありませんが ^^;

そして私は一人になった (角川文庫)

そして私は一人になった (角川文庫)