風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

お金と誠実さ

荷宮和子著「声に出して読めないネット掲示板」を読んでいて面白いくだりに
ぶつかった。親と子供それぞれに「大切にしたいこと」という質問をぶつけた
結果がそれだ(くもん子供研究所の調査として朝日新聞記事からの抜粋)。

両者とも「家族」が第一位になっているのは同じなのだが、親のほうは大切な
順で、健康、思いやり、誠実さ、仕事となっているのに対して、子供のほうは
友達や友情、人とのつきあい、健康、お金となっていて、誠実さは18位に
とどまっている。逆に親のほうはお金が12位となっていて「誠実さ」と
「お金」について両者に非常に大きな違いが見られる、ということだ。

荷宮はこれについて「子供は素直に物事を受け取って表現しているだけだ」と
分析する。つまり、子供を取り巻く環境は「大事なのはお金、誠実さなんて
大事にしていたところでバカをみるだけ」という空気に満ちている現実に
素直に反応しているだけだ、と。

荷宮が言う通り、コマーシャルでも幼稚園児が並んで「お金は大事だよ〜♪」
と歌っている時代である(実に破廉恥なCMだ、と個人的には思う。苦笑)
大事なのは何といってもお金、と思うのは当たり前なのだろう。
もちろん、お金がとても大事なことは確かだ。
しかし、生きる上ではもっと大切なものがあるし、そのもっと大切なものは、
美しいけれど微かな蝋燭の灯のようなもので、お金という現実の風の一吹きで
ふっとびそうな”はかないもの”だからこそ、社会に出る前に自分の心の一番
底に「格率」として埋め込んでおくべき、と思うのだが。

荷宮はさらに「誠実さ」についても面白いことを書いている。
以下、引用。

他方、「誠実さ」についてはどうか、と言えば、たとえば、テレビドラマやCM
や漫画では、「男が女を裏切る展開」が中心となって、話が転がっていくのが常
である。
娯楽作品の存在理由とは、現実を思い出させる等身大の登場人物たちに感情移入
して楽しむこと、だけではない。現実にはなかなか実現不可能な、けれども、
「やっぱり、こうあってほしい」と思う理想を、受け手に見せてくれることもまた、
エンタメの存在理由の一つであるはずなのだ。

が、ごくフツーに生きている人間が見聞きすることのできるエンタメの類からは
「こうあって欲しい」と思えるタイプの作品はどんどん少なくなってきている。
現実の焼き直しとして「恋愛=ゲスな男と愚鈍な女の傷のなめあい」という図式
の範囲内で「誠実さ」とは程遠い登場人物ばかりがくっついたり離れたりを繰り
返す。そんな娯楽作品にのみ囲まれて育った人間が「誠実であることは難しいこと
だが、やはり望ましいことである」と考えられる人間になど、成長できるはずが
ないのである。

この点は僕も同感だ。
日本の映画もドラマも、視聴者にすり寄ってどんどん「等身大化」してきている。
メディアは世のニーズに先行しなくてはならないから、当たり前かもしれない。
視聴者たちが理想より等身大を求めていたら、作り手はそれに合わせて視聴率を
取るために、そういうドラマを紡ぎ出す。それを見た視聴者はますます等身大を
求め、作り手はさらにその姿勢を低くしてゆく。
知らぬ間に、そんな繰り返しが少しずつ進行していたのではないか?

ヨン様だなんだ、とかしましいが、最近、韓国ドラマが新鮮に受け取られている
一つの理由はここにあると思う。韓国ドラマには、日本のドラマが失ってしまった
「こうあって欲しい理想」が描かれている。

   「お金より誠実さが大切」
   「自分より相手の幸福を望むのが本当の愛」

しかし、こんな風に臆面ない正論をお隣の国のTVドラマから教えてもらえるとは
思わなかったですね。

声に出して読めないネット掲示板 (中公新書ラクレ)

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