風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

建築家のメモ

日本建築家協会が編纂した「建築家のメモ」。
この本は現代の気鋭の建築家100人に、建築設計の課程で書く・画く・作る
メモを公開してもらい、さらにそのご本人の「メモ」についての思い入れや
考えがまとめられたユニークな本だ。ちなみにこの本は、こちらでリンクさせ
ていただいている「新月の願い」の紗々美さんが本の企画からインタビュー、
編纂にご尽力された本でもあります。

まずもって、本を開いて楽しいのは、左ページにメモそのものが、そして右
ページにその建築家ご本人インタビューやコメントが記載さている見開きの
構成になっていること。左ページのメモだけを眺めてゆくだけでも楽しいし、
その中であれ?と思ったものについてご本人のコメントをすぐ読める。
これはとてもいい。

一枚ずつページをめくって、メモをじっくり眺めた後に、建築家のコメントを
読んでゆくのもとても楽しい。そうやって読んでいくと、組織事務所の方は、
メモをコミュニケーションの手段、という視点で捉えられている方が多いこと、
アトリエ事務所の方は創造の補助手段としてのメモという観点でコメントされ
ている方が多いことに気づく。
これは当然と言えば当然かもしれないが。

それにしても、色鉛筆やボールペンで描かれたメモの、うつくしいこと!
線一本一本から、図面や写真からは伝わってこないような、息づかいが感じ
られるのだ。眺めているだけで飽きない。

そんな中で異色なのは、プランテック総合計画事務所の大江 匡氏の
メモだろう。なにせ、メモのページは「白紙」なのだから。大江氏は「メモ
やスケッチを所員に渡すことで初期アイデアを制限したくない」と言い、
「デジタルネットワークの中でコラボレートしながら多数のアイデア
シミュレートした上でまとめていく」という手法にとって「紙のメモは運び
にくく共有化できない」と言い切る。
ラディカル、と言えるだろうと思う。
建築家ではない僕にはこの考え方の当否にコメントすることはできないけれど、
ビジネス上の効率という面では感心するけれど、少し寂しいな、と思ってしま
うのも否定できないことだった。

建築家個人の絞り込まれたアイデアの具現化という方向性と、多数のアイ
デアをシミュレートした上での最適成果品の組織的抽出という方向性。
メモについてのコメントを通して、このような二つの方向性がなんとなく
見えるのも面白かった。

建築家のメモ―メモが語る100人の建築術

建築家のメモ―メモが語る100人の建築術