サティの音楽
「音楽の種子(近藤 譲著、朝日出版社」という本を読んでいてエリック・
サティの音楽について触れている一節にぶつかった。
面白かったので紹介したい。
近藤はサティの音楽が主として当時既に広く一般の家庭に置かれていた
楽器であるピアノの為に書かれていること、そして明らかに奏者の為、と
思われる奇妙な題名や奇妙な文章が添えられていることに注目する。
つまり、サティの音楽は人に演奏して聴かせる「芸術表現」ではなく、
奏者が個人的にピアノで弾き、添えられた文章を読んで「個人的に楽しむ
ため」のものであったのではないか、そして(多くの芸術音楽がそうで
あるように)人々を音楽表現で陶酔させ、その中に引きずり込むのでは
なく、逆に音楽を日常的な生活の場に引き出そうとしていたのではないか、
と論ずる。そしてこの方向性こそ今の現代音楽に対する一つのヒントに
なるのではないか、と言う。
現代音楽の多くは聴衆に沈黙と集中を求める(そうしてすら受容しかねる
ものが多いのだが)。それとは逆に、音楽を日常の中に引き出し、それを
自ら奏することで音楽を遊戯に近いものとして気楽に受容してゆくこと。
今の現代音楽の分野でサティ的な系譜がないわけではないと思うのだが、
人々に音楽を受容させるプロセスの一つとして、こういうアプローチが
ずっと以前から作曲家の側からなされていたというのはとても面白いこと
ではある。
ただ、正直なところ、僕にはその延長線上に音楽芸術の未来があるとは
到底思えないのだ。その方向性なら、現代のポピュラー音楽のほうが、
ずっと適している、と。そんな簡単じゃない、そんなイージーなものでは
ない、と言いたくなる。では、いったいどういう道があるのか?というと
返答に窮するのだが。
かくのごとく、現代音楽の世界は依然として混迷している。
- 作者: 近藤譲
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 1983/04
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