風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

悔恨

日曜日、かっての部下のお宅へ。
彼の奥さんは、年末に事故で亡くなった。
ゴミを出そうとマンションの階段をおりている途中で転倒し、打ち所が悪くて
そのまま帰らぬ人になってしまった。

彼は、こう言った。
あの日に限って、エレベーターを使わず、階段を下りてしまったのだ。
エレベーターで下りよう、と自分が言っていたら、こんなことにならなかった
のでは?ゴミを自分一人で出しに降りていたら、こんなことにならなかった
のでは?
そう、毎日、後悔している、と。
どんなに悔やんでも悔やみきれない、と。
その階段を通るのが耐えられないほど苦痛だ、と。

彼の家の中はぼろぼろだった。
彼の関心は、もうこの家のどこにも向いていないことがよくわかった。
彼には子供がいない。
5匹の猫と彼は、突然、予兆もなくいきなり取り残された。
彼は、もうこの街には住めない、ここを引き払うのだ、仕事を辞めて郷里の
両親の家に帰るのだ、そして別の仕事につくのだ、と言った。

死は、どんな形で、いつ、降りかかってくるかわからない。
だからこそ、自分は、毎日を精一杯生きるのだ。
だからこそ、愛する人たちを自分のできる限り大切にしないといけないのだ。
悔いが残らないように。

亡くなった奥さんの遺影にお線香をあげながら、僕はそう思った。