風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

Mentorを探して

仕事柄、僕には何人か外国人の知人がいるのだけれど、ジェフはその一人。
アメリカ人でベンチャー企業の社長をしている。
以前、彼が別の会社の社長をしていたときに、取引の関係で知り合った
のがきっかけだ。その時、僕は会社の利益を代表して、ある時は英語で、
ある時は日本語で(ジェフは日本語も流暢に喋る)彼とは散々やり合った。

不思議なもので、とことんやり合うと、お互いの気心が知れる、という
ことが(男の世界では)ままある。お互いに『一目置く』というやつだ。
しばらくしてジェフはその会社を辞め、僕の会社との縁も切れたのだけど、
なんとなくお互い、メールをやりとりしたり、個人的に飲みに行ったり
するようになっていた。
その後ジェフはアメリカに戻ってMBAを取り、また日本に舞い戻って、
今、新たなベンチャー企業を設立して頑張っている。

さて先日、ジェフが会社の近所に来たので一緒にランチを食べた。
もう直接のビジネスの関係はないので、気楽なランチだ。
松花堂弁当を食べながら、僕は冗談混じりに「さて、これからの目標を聞か
せてよ」と言ったところ、彼は急に真顔になってこう言った。
「◯◯サン、僕はメントァを探しているんだよ。
 僕はメントァを見つけないと。
 それが僕の今年の目標だよ」
と。

僕はジェフの意外な言葉にいささか驚いた。
彼のことだから、ベンチャー企業の業績をぐわっと伸ばして、会社を売って
ゴールデンパラシュート、後の余生はフロリダで!みたいな豪勢な話をする
かと思っていたから(そう言うことも容易に想像できるヤツなのです ^^;)
しかし、、メントァですか。

「Mentor」という単語、辞書をひくと「信頼できる相談相手、指導者」と
出てくるけど、イメージとしてはもっとスピリチュアルな「導師」という
ニュアンスだと思う。
「生き方や心のあり方を導いてくれる師」という感じでしょうか。

明るくてポジティブ、いつだって前向きで自信満々のジェフが、そういう
存在を求めている、というのも意外だった。
しかし、彼は真剣だった。
自分はビジネスだけに生きているのではない、自分だって一人の人間として
生きている、当然だろう?という感じだった。
そうだね、そういう存在は誰もが探しているのかもしれない、でもなかなか
そういう人に巡り会うのは難しいんだろうね、と僕は彼に言った。

そういえば、僕も、そういう導師に巡り会えれば、と思っていた時期がある。
いろいろな事柄、生き方、考え方に対して一つの指針を指し示してくれる
ような賢者とも呼ぶべき人が自分にいたら、と。
しかし、結局そういう人とは巡り会えず、そのうちに僕自身、そういう存在
の必要性も感じなくなった。

そして今、こう思っている。
そういう存在に巡り会えなかったからこそ、今の自分がある、と。
事実をそのまま受けとめ、苦悩し、思索し、迷い道を自分の力で切り抜ける
ことで得た「自分の哲学」を持った自分が、ここにいる、と。

僕より若いジェフと話しながら、こう思った。
ガンバレよ。
人に頼らず、自分の頭で考えて、苦しんで、人生を切り開けよ。
君にはそれができる知性と、勇気と、なにより自信があるのだから、と。