水差しを持つ女
六本木の森アーツセンターギャラリーの「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち」という展覧会を見に行ってきた。
もちろん僕のお目当てはフェルメールの「水差しを持つ女」である。
この絵はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されており、僕もまだ未見である。
実のところこの絵、実際に見るまでは僕の中ではあまり魅力的な絵と認識していなかった。
画集などで見るこの絵は地味であり、加えて女性の顔などの筆致がいささか丁寧さを欠いて
いるように感じていたからだ。
しかし、今回、絵の実物を見ることで僕はこの絵に魅了された。
本当に素晴らしい、と心打たれたのだ。
この展覧会で展示されている多くの絵と比べても地味といっていい絵なのにやはり全然
違うのだ。
今回何よりも僕が引きつけられたのは女性の背後の漆喰の壁の描写だった。
やや黄色っぽい何の模様もない漆喰壁。
しかし、絵の実物を丁寧に見るとその壁には様々な色と表情が、実に丹念に細かく描き
こまれている。それは全体の絵の中で調和を保っており、なおかつ(所謂)スーパー
リアリズム的な鬱陶しさもなく、自然な表情をみせつつも単調でない。
人が多かったのでこの絵の前を4回通りすぎるために僕は列に4回並んだけれども何回
見ても全く飽きがこない。通り過ぎる度に僕は漆喰壁の描写を呆然と見ていた。
漆喰壁のある部分は青みを帯びており、ある部分は黄色みを帯びている。
緑色を帯びているように感じられる部分もあり、漆喰壁の微妙な凹凸や面の傾きの表現
も調和が取れており破綻がない。本当に素晴らしい壁の描写、としか言いようがない。
プルーストの「失われた時を求めて」にフェルメールの絵「デルフトの眺望」の中の
「黄色の小さな壁」の描写を見て感動して死んでしまう登場人物の描写があるそうだが
(残念ながら僕は未読である)さもありなん、と思う。
同時に女性の顔やテーブルクロス(これもまた実に素晴らしい表現だ)や宝石箱なども
丹念に見ると全く手が抜かれておらず美しい。
この絵は本当に丹念に、丁寧に描かれた傑作だ、と改めて感じ入った。
これで僕が見たフェルメールの絵は23点目。
あと残りは10点程になった。