風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」

仕事漬けの日々の中でも激流に抗うように少しずつ、少しずつ読んでいる
本がある。それがボルヘスの「伝奇集」。短編集なのだけれども、どの
作品も、独特の幻想と不思議さに彩られた不思議な味わいの短編ばかりだ。


中でも「円環の廃墟」は読んでいるうちに「これは読んだことがある!」と
気づいた。調べてみるとジュディス・メリル編の『年刊SF傑作選6』
(創元SF文庫)に収録されていたのだ。なるほど彼の作品は幻想文学とも
SFとも言えなくもない。
しかし南米文学を表す「マジック・リアリズム」という言葉通り、実に
不思議なリアリティに満ちていつつも、見事にの虚構の世界である。
そして、出てくる人物には見事に「内面」がない(笑)。
そうか。登場人物に内面などなくても、物語は成立するのだ。


それにしても誰が「生まれてから全ての事柄の細部、それも一瞬一瞬の
記憶を保持し続ける男」(記憶の人、フネス)や「無限数の六角形の
回廊で成り立っている図書館」(バベルの図書館)や「名詞が存在
しない世界」(トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス)
などを想像できたろう。
ひとつひとつの着想が、そしてそれを膨らませる技が素晴らしい。

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)