風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

フェンウェイパークの松坂

アメリカ出張もこれで5日目。
昨日サンフランシスコからボストンに移動した。
今日は取引先との都合が合わずぽっかりと空いてしまった。
天から降ってきた休日である。


宿泊先はボストン市内からかなり遠いホテルであるが、周りには何もなく、
ホテルで過ごしてもつまらない。
市内に出てみることにした。
最寄り駅までタクシーに乗り、地下鉄を乗り継いでまずボストン美術館へ。
地下鉄は猛烈に混んでいる。
それもそのはず、今日はボストンマラソンの日なのだ。


ランナーの応援団たちを尻目にMusium of Fine Arts駅で下車。
ところがなんとも運の悪いことに閉館している。
この日は「Patriots Day(愛国者の日)」というマサチューセッツ州の休日
だったのだ。ゴーギャンの「我々はどこから来たのか、どこに行くのか」を
再見できることを楽しみにしていたのだが大変残念である。
当てを失った僕は地図を見ながらぶらぶらと北に向かった。
美術館裏手のBack Bay Fensと呼ばれる公園を突っ切るとそこには大リーグ
ボストン・レッドソックスの本拠地のフェンウェイパーク・スタジアムが
ある。近づくと歓声が聞こえ、肉が焼けるにおいがする。
どうやら試合が行われているらしい。


せっかくアメリカまで来ているんだから、大リーグの試合を見るのも一興か
と思い、外にいたチケットのダフ屋に聞くと50ドルだと言う。球場の雰囲気を
見るだけでもいいや、と思いチケットを買って中に入った。どうせろくな席
じゃないだろう、と思っていたが、一塁側のフィールドにごく近いなかなか
良い席である。
レッドソックストロント・ブルージェイズの試合のようでブルージェイズ
の2回の攻撃だ。
ボストン・レッドソックスのピッチャーは背番号18。
あれ?背番号18って松坂大輔じゃないの?
僕は目を疑った。
目を凝らして見ても間違いなくあの松坂大輔である。



信じがたい偶然が重なって、僕は松坂のピッチングを見ることになった。
松坂は簡単にバッターを打ち取ってゆく。
ただ、彼本来のフォームではなく、ダイナミックさがなく体重が乗っていない
ような印象を受けた。速球も最速で92マイル程度(147km/h)。
コントロールを優先して丁寧に投げている、ということなのだろうか?


マウンド上の松坂はとても孤独に見えた。
アメリカ人の大男に向かって淡々と仕事をする松坂。
見るうちに、思わず心の中で「頑張れ!」と叫んでいた。
周囲のアメリカ人たちのように「Go! Diceke! Keep Going !」と立ち上がって
叫ぶことは出来なかったけれど。


松坂は7回をヒット1本に抑え、勝ち投手の権利を得てマウンドを降りた。
それを見届けて僕も席を立つ。
大リーグの球場の独特の雰囲気の中で孤独に戦う一人の戦士から、間違いなく
僕は力を貰った。