風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

池上實相寺・サロンコンサート

池上實相寺で行われた寺神戸亮氏のサロンコンサートに行ってきた。
實相寺は池上梅園に隣接してある古刹であるが、この一角にしつらえられた
寺子屋と呼ばれる小スペースでのコンサートである。
訪れてみてあっと思ったのは、この寺子屋、ステージにあたる部分の背後が
大きなガラス戸(というかガラス壁)になっていて、背後の池上梅園が借景
になっていること。紅梅白梅が満開に咲き乱れている梅園と暮れゆく空を背景
にした古楽器コンサート、他では体験できない素晴らしい雰囲気だった。

最初はテレマン無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲の第1番と第7番。
どちらも初めて聴く曲である。第1番は楽器の調子が出ない、という感じで
あったのだが、第7番のほうになると楽器の鳴りも良くなり、演奏もぐっと
引き締まって素晴らしい。どちらの曲も緩急緩急という楽章の組み合わせ
でシンプルであるが味わい深い曲。
続いてビーバーの「ロザリオのソナタ」からパッサカリア ト短調
寺神戸氏の面白くわかりやすい解説にもあったのだが、パッサカリア
シャコンヌと同様変奏曲の一種であり、執拗低音(バッソ・オスティナート)
が何度も何度も同じパターンで繰り返される。このパッサカリアは初めて聴く
曲であったのだが、執拗低音が後世の作品に比べてはっきりわかるように
作られているのは印象的だった。シンプルではあるが心の奥底に響いてくる
深みのある良い曲であった。

次にバッハの無伴奏ヴァイオリンの為のパルティータ2番からチャッコーナ。
所謂、シャコンヌである。
ビーバーのパッサカリアのすぐ後で演奏されたからだろうか、恐ろしく複雑で
名人芸の曲、と感じられる。寺神戸氏の演奏も大変な気合いの入った熱演であり、
素晴らしいものだった。これだけ音が多く複雑になるとビーバーの曲のように
バッソ・オスティナートを耳で追うのは難しい。もちろん名曲なのであるが、
バッハの曲の中ではヴィルトオージテに溢れた曲とは思う。
僕がぼんやりと考えていたのは、ずっと時代が下ってリストやラフマニノフ
よくやった「感動させるぞパターン」の源流はこのあたりか、ということ。
「感動させるぞパターン」とは、冒頭にテーマを演奏しておいて、それをいろ
いろに変奏しつつ盛り上げいって、クライマックスで大音量かつ分厚い音群で
テーマをどーんを演奏する手法である。

休憩を挟んでヴィオロンチェロ・ダ・スッパラ、所謂肩掛けチェロによる
バッハの無伴奏チェロ組曲第2番の演奏。
これは以前のコンサートのような耳障りな共鳴音は聞こえず、快適に聴く
ことができた。組曲の途中の調弦が1回しか行われなかったのも良かった。
前回と同様の素晴らしい朗々とした音色に加えて、楽に弾いている、という
感じを受けた。これは特にアンコールで弾かれた無伴奏チェロ組曲6番の
サラバンドで顕著で普通は第4弦の高音部で弾かれる部分を第5弦の中音
域で弾けるが故のことなのだろうか。

池上梅園を借景にした寺子屋の素晴らしさは演奏と共に印象深かった。
時間に余裕があったら池上梅園もゆっくり巡りたいところだったのだが。
また来年の楽しみにしておこうか。