『ショスタコーヴィチの証言』を読んで
「ショスタコーヴィチの証言」読了。
500頁の大著であるが大変面白く読めた。この本はソロモン・ヴォルコフという人
がショスタコーヴィチ存命中に聞き書きしたということになっていて、各章の終わり
にはショスタコーヴィチの署名もなされている、という話だが、アメリカで出版された
当初から偽書疑惑が取りざたされたそうだ。
今では研究の一次資料としては取り上げられていないということである。
しかし、読んでみるととにかく面白い。
共産主義体制(というよりもスターリン独裁)のもとで芸術家達にどのような弾圧が、
無言の抑圧がなされていたか描かれている。また、旧ソ連の作曲家、演奏家達につい
てその人となり、性格等、生き生きと描写されている。特に音楽院院長だったグラズ
ノフの描写は見事である。
この本が偽書かどうかわからない。しかし、はっきり言えることは、この本を書いた
人は人間について、そして社会について恐るべき洞察力を持った人物であるという
ことだ。人間描写にしても並の小説家などおよびもつかない複雑で矛盾した人間像を
描き出している。事実をそのまま述べた、としか思えないような(苦笑)迫真の描写、
と言えるだろう。
本当にいい本を読んだ。
僕が気に入った一節:
【引用始まり】 ---
食事もせず、睡眠もとらずに、ただひたすら耐えている状態とは、文学作品
の中でのみ起こるのである。実際、生活はもっと簡単につくられている。
(中略)
乞食は自分が乞食になるや否や心配するのをやめる。
ゴキブリにしても、自分がゴキブリであることにそれほど苦しんだりはしない
ものだ。
【引用終わり】 ---
- 作者: S・ヴォルコフ,水野忠夫
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1986/01
- メディア: 文庫
- クリック: 3回
- この商品を含むブログを見る