風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

ベルリン・バロック・ゾリステン演奏会

仕事の合間にベルリンフィルの精鋭を集めた世界的に有名なバロックの弦楽アンサン
ブルであるベルリン・バロック・ゾリステンの演奏を聴いてきた。
この日のプログラムは:

ヘンデル:オペラ「アルチーナ」より弦楽のための組曲
モーツァルトチェンバロ協奏曲ニ長調
テレマンヴィオラ協奏曲ト長調
・ビゼンデル:弦楽のためのソナタハ短調
・JSバッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調
パッヘルベル:カノン
テレマン:弦楽のための協奏曲変ホ長調

僕が特に楽しめたのはモーツァルトチェンバロ協奏曲、テレマンヴィオラ協奏曲、
そしてバッハのヴァイオリン協奏曲。
簡単に感想を書き記しておこうと思う。

モーツァルトチェンバロ協奏曲は初めて耳にしたが、初期のピアノ協奏曲に通じる
いかにもモーツァルトらしい軽やかさ、明るさ、躍動感が印象的。
チェンバロという楽器はピアノと違って音に強弱をつけられない(撥弦楽器なので)
ために、わずかに音を伸ばしたり、撥弦のタイミングをずらすことで「強い音」を
表現するわけだが、ややもするとそれが音楽の流れを疎外することがある。
この日のチェンバロ奏者のアルパーマンは、淀みないテンポの流れをまず優先して
おり、それは成功していたと思う。それでもカデンツァの部分などを聴いていると、
「これがピアノだったら・・・」と思ってしまう一瞬があったことも否定はできない。

テレマンヴィオラ協奏曲、これも未聴曲。
これはものすごい入神の演奏だった。
何よりヴィルフラム・クリストの演奏するヴィオラの音の美しくふくよかで深いこと!
改めて名手によるヴィオラ音の素晴らしさに感じ入ってしまった。
そして、第3楽章Andanteの深く大きな表現、終楽章Prestoの高揚感。
特に終楽章のPrestoは強烈なスピード感、ドライヴ感にあふれていて聴いていて圧倒
されたが、このスピードで全く合奏精度が落ちないメンバーの腕にも舌を巻いた。
なんというか、独奏者だけではなくメンバー全員がこの曲の演奏について恐ろしく高い
レベルの「確信」を持っていて一気呵成に弾ききった、という感じ。
この一曲の演奏でもこの日のコンサートに来た甲斐があったと思う。

バッハのヴァイオリン協奏曲第1番。
この曲は普段僕は、寺神戸亮独奏のバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)の
演奏を愛聴しているのだが、ベルリン・バロック・ゾリステンの演奏はそれに比べると
ずっと大人の落ち着いたバッハだった。スピードもBCJの演奏よりもゆっくりだし、
何よりヴァイオリン独奏のライナー・クスマウルの演奏が寺神戸とまったく違う。
寺神戸の演奏はバロック・ヴァイオリンらしく明暗がはっきりしていて、ボウイング
息もどちらかというと短めの歯切れよい演奏なのだが、対するクスマウルの演奏は
ボウイングの息が長く(当然フレージングの息も長い)ゆったりとした大人の風格を
感じさせるものだった。もちろん古楽としてきちんと文法に沿って演奏されているわけ
であるけれども、ヴィヴラートも所々入れられて(寺神戸は全くヴィヴラートをかけ
ないストレートな音)暖かで滋味深い豊かな表現が印象に残った。
寺神戸の演奏も大変な名演だと思っているけれど、この日のクスマウルの演奏も違う
方向性ではあるけれども大変に優れた演奏だったと思う。

良い音楽を聴くと一日の疲れも一瞬で癒される。
本当に良いコンサートだった。
また音楽を聴こう。