風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

地図の話

小さい頃はこんな風だった、というたぐいの話によく出てくるような気がする
けれど、幼稚園にあがるぐらいの頃、僕は鉄道がすごく好きで東海道本線の駅の
名前を東京から大阪まで全部暗記していたそうだ(母の話によれば)。
自分ではまったく記憶がないのだけれど、確かに電車を眺めるのは好きで、祖父
に手を引かれて近くの駅近くの線路沿いに連れて行ってもらって、ポイントが切り
替わったり、電車が行き来するのを飽きもせず眺めていたことは覚えている。
その後、鉄道に対する興味は薄れてしまい、僕は「鉄ちゃん」になることもなく
少年時代を過ごしたのだけれど、それでも鉄道路線図を見たり地図を眺めたりして
もの思いに耽る習慣は大人になるまで続いていた。
「列車」や「鉄道」に対する興味は「見知らぬ土地」への興味に移っていっていた
かもしれないが。

例えば、新潟に、直江津という街がある。
これは、昔持っていた4色刷の鉄道路線図を見ていて「どんな街だろう?」と子供心
にいつも興味を持っていた街だった。直江津駅日本海側の港町で北陸本線信越
本線が交差する駅であり、なおかつ佐渡島への船も出ているのだ。
日本海側では、冬には雪が何メートルも積もるそうだ、という大人の話を聞きながら
「いったいどんな街だろう?どんな駅だろう?どんな景色だろう?」といつもどき
どきしながら路線図を見ていたものだった。

世界地図も同じように眺めては楽しんでいた。
僕が興味を持って眺めていたのは、シベリア北部とカナダ北東部だった。
このあたりはメルカトール図法では実際よりも大きく描かれる。
シベリアでは、例えば北極海のノバヤゼムリャ島(水爆実験場とは知らなかった)
とかオビ川流域、カナダではバフィン島などは、どんな所なのだろう?と興味が
尽きることがなかった。
日本よりずっと大きい面積の土地なのに、地図上ではほとんど何も記入がないこと
が惹かれた一つの要因だったに違いない。

この見知らぬ土地に対する好奇心というか興味のようなものは、恐らく僕が今の
ような海外・国内を飛び回る仕事を選ぶ時に何らか影響を及ぼしたのではないかと
思う。これまでに22ヵ国の数え切れないほどの街を訪れることができたのは、
今の仕事を選んだからであることは間違いない。
僕は出張のたびに、その街で地図を一枚、買うことにしている。
自分へのささやかなお土産として。

最近は地図を見ていて惹かれるのはやはり北東ロシア。
カムチャッカ半島とかウラジオストックなどは一度行ってみたい場所だ。
ただ、ウラジオストックはひどく治安が悪いそうだし、カムチャッカ半島も夏は
美しいそうだが「何もない」そうだ。

僕は、これらの土地にいつか行くことができるのだろうか?