風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

ゴールドベルク変奏曲

会社支給の携帯電話が新しくなった。
こんどの携帯はFMラジオが聴けるというので、帰りの電車の中で試しにイヤホンを
差してNHK FMにチューンしたところ、バッハの音楽が流れてきた。
途中からだったけれど、すぐに曲名はわかった。
ゴールドベルク変奏曲だ。

この曲を語るにはピアニスト、グレン・グールドは絶対はずせない。
私見だが、バッハをピアノで弾く、という行為に関しては「グールド前」と
「グールド後」にはっきり分けられる。だからいかなるピアニストもバッハを弾く
以上、どういう形にせよグールドの演奏を無視はできないのだ。
グールドの演奏については「グレン・グールド演奏術」という大部の本があって
あらゆる角度から徹底的に緻密な分析がされているのだが、分析をしたからと
いって、誰かがグールドの真似をできるわけではない。
一方で無視するなら無視するでグールドを意識しないわけにはやはりいかない。
それほど徹底的に独創的かつ無視できない演奏だったのだ。

誰かわからないそのピアニストはとてもよく弾いていた。
しかし様式的には「後期グールド様式(勝手に僕が名付けたものです ^^;)」
もっとはっきり言ってしまえば「1981年型グールド」だった。
とはいえ、おそらく若いピアニストなのだろう、とてものびのびと、生き生き
と弾いていて小気味よい演奏だ。

そう思いながら聞いているうち、第18変奏で「あっ!」と驚いた。
この変奏はヘンデルを思わせる明朗な変奏なのだけれど、部分的に右手をオク
ターブ上のポジションで弾いている。
びっくりすると同時に、なるほどと感心した。
これは、明らかにチェンバロレジスターを変えるのと同じ効果を狙っているのだ。
ピアノと全く違う発弦楽器であるチェンバロにはレジスターという機構があって、
押しボタンのようなレバーでもって、音を瞬時にオクターブ上に切り替えたり、
あるいはオクターブ上の音を重ねたりすることができる。

ゴールドベルク変奏曲が書かれた頃にはピアノはまだ生まれておらず(クラヴィ
コードというピアノの前身に当たる楽器はあったが)、主としてこの曲も
チェンバロあるいはオルガンで弾かれたことだろう。
このピアニストはそれを念頭に置いてチェンバロ的な表現を狙ったのだと思う。
かつてピアノでこのような表現がなされたことがあったのだろうか?
とにかく、僕はこのような挑戦を耳にしたのははじめてだったので、とても愉快に
感じた。

第30変奏のコードリベから最後のアリアに回帰して演奏が終わった。
この演奏を生で聴いていたらすごく感動しただろうな、と思えるものだった。
最後にピアニストの名前が紹介された。
マルティン・シュタットフェルトというドイツのピアニストだそうだ。
名前を覚えておこうと思う。

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)

グレングールド演奏術

グレングールド演奏術