風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

サッカーの戦略論

サッカーというスポーツの戦略について考えてみたい。
サッカーについては戦術論、システム論はいろいろあり、そういうのがお好きな
方はネット上にも沢山おられるようですが、ここではもっとずっとベーシックな
部分について考えてみたいと思う。

複数の人間が同じ目的を持って他の団体と何かを争い、勝ち負けを決定する、と
いう活動については実のところ汎用的な法則が存在する。
大抵の戦略論の教科書に書いてある「ランチェスター戦略」「ランチェスター
の法則」というのがそれだ。ランチェスター戦略論はもともとは戦争における
投入戦力と残存兵力の関係式から導かれたものだ。

法則は二つある(本来数式で表現されているもう少し複雑な内容ですが
サッカー用に書き換えます。興味のある方はネットで『ランチェスター戦略』
で検索してください)。
まず第一法則。
これは「一対一の局地戦」での法則だが、一対一では必ず技量が優れたほうが
勝つ、というもの。
次に第二法則。
これは「多数対多数の確率戦」での法則だ。
これによると戦力比は、その集団の技量に比例するが、さらにその局面に投入した
人数の二乗にも比例する。

この第二法則はとても面白いことを示唆している。
つまり相手に勝つ手段として「個人の技量」と「局面の人数」の双方を比べた
場合「局面の人数」のほうがより決定的ファクターである、ということだ。
つまり戦いに確実に勝つには、技量を上げる以上に局面で常に人数を多くかける
ことができるような仕組みを作るほうが効率がよい。
(もっとも例外はあり得る。例えばマラドーナが普通のDFを5人抜ける力を
 持っていたとしたら、局面で1対2を作ったとしても戦力は
 「マラドーナ5:DF2人=2の二乗=4」だからやっぱり負けてしまう ^^;)

今のサッカー日本代表においてオシム監督が、2002年の日韓W杯でトルシエ
監督がやろうとしていたことは比較的これに近い。人が流動的に動いて守備の
局面では1対1になりにくいように、逆に攻撃の局面では数的優位を作るような
仕組みを作ろうとしていた。『日本人はフィジカルが弱く個人技も南米・ヨーロッパ
に比べるとまだまだだから組織で戦わないと』と言うけれども、実は戦略論的
に言えば組織で戦うことこそが勝利への近道」なのだ。

僕がサッカーを見ていて興味を感じるのはこの部分らしい。
どうやってそのチームが局面の数的優位を作るような仕組みで動いているのか。
華麗な個人技ももちろんカタルシスを感じて面白いけれど、自分がチームで仕事を
していることもあって、ついついそういう部分にも興味が行く。
そういう目で見ると川崎フロンターレジェフ千葉のサッカーは本当に面白い。

翻って、浦和レッズ
残念ながらイマイチ面白くない。
フォワードのワシントンが3程度の力を持っているので1対1の局面を作られると
他チームは結構点を取られてしまう。一方、浦和のDFは日本代表クラスでそれぞれ
2程度の力を持っている上に、闘利王がリベロで一枚余っているから数的優位を作る
のも難しい。ランチェスター戦略から考えても勝つのはまぁアタリマエなのだが、
アタリマエのことが眼前に繰り広げられるのにカタルシスを感じるのは難しいのだ。

とはいえ、サッカーのやり方なんて監督が替わるとあっさり変わる。
来年の浦和が新監督のもとでどういうサッカーをするのか楽しみにしたいと思う。
もっとも、今の浦和の戦力でランチェスター戦略に沿った組織的サッカーをやられ
たら他のチームは「まったく手も足も出ない」ことになるだろうけれど。
それはそれでちょっとツマラナイかもしれませんね ^^;

注)ここでは非常に単純化して書きましたが、シーズンを通して長期間で勝敗が争わ
  れる場合、本来その集団の「直接戦闘力の損耗」や「補充戦力」まで考慮した
  さらに複雑な戦略モデル式で語らなくてはなりません。
  そうなると結局、直接サッカーをしている選手レベルにとどまらず、組織として
  の資金力、運営力、観客動員などを含めた企業体としての総力が問われることに
  なりますが、その点でも浦和レッズはJリーグの中で一歩抜けつつあると思います。