風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

アメリカ出張 〜最終日:旧友との再会

 **** ご愛読ありがとうございます。本日、無事帰国いたしました ^^ ****

僕はスティーブに会えるなんて思っていなかった。
全く予想外の展開だったのだ。

僕が初めてこの小さな街に来た時、スティーブは極東担当のマネージャーだっ
た。当時、大学出たての僕は右も左もわからず、会社からとにかく勉強してこい
と言われてアメリカにやってきた、という状況だったけれどスティーブは精力的
に彼らの製品やマーケティングについて説明し、夜や休みとなればずっと日本
からやってきた若造(僕)につきあってくれたのだった。

それから彼は何度も日本にやってきて、僕たちのつきあいはいっそう深まった。
クリスマスカードのやりとりもしばらく続いていたのだけれど、僕の会社の
ほうが彼の会社と縁が切れてしまったこと、僕自身も別の部門に配属が変わり
まったく違う仕事になったこと、彼も子会社の方へ転出してカリフォルニアに
引っ越したことなどからいつしか連絡が途絶えてしまったのだった。

今回、この街を再訪するにあたって思い出すのはスティーブと過ごした日々
だった。しかし、もはやビジネスの縁が切れてしまった上に彼が今、どこに
いるかもわからない。この街にいる可能性はまずないだろう、そう思っていた。
ところが、今回の取引先の社長にその話をしたところ、なんと彼を知っており、
ティーブはこの街に戻ってきていると言う。
そんな偶然があって僕たちは再会することができた!

積もり積もった話に花が咲く。
お互いの知人の消息、お互いあれからどうしていたか、話が尽きない。
連絡が取れなくなった後、カリフォルニアでの彼の仕事が認められ、彼は若く
して親会社の役員に抜擢され、この街に戻ってきた。
さらに6年前にはついにCEO(最高経営責任者)にまで登り詰めたのだ。
彼が従業員数千人の大企業のCEOになっていたとは!
これは僕には大きな驚きだった。

彼によるとこのCEO時代の仕事は本当にきつかったらしい。
彼の会社はドイツに本拠を置く国際コングロマリットの一部だったため、5年間
毎月2回、彼はドイツの会議に出席しなくてはならず、なおかつ中国やインドや
米国内を走り回らなくてはならないクレージーな状況だったそうだ。
そんな5年間の後、ドイツのコングロマリットは彼の会社をあっさりとカナダの
コングロマリットに売った。売られた瞬間、彼はCEOの座を追われ無職に
なった(アメリカではよくあることだ)。
そんなわけで去年末からは、彼は従業員300人の会社のCEOをつとめている
という。

彼はつくづく述懐していた。
あの嵐のような日々、毎月大西洋を2回往復し、世界中を駆け回って仕事に
熱中した日々はきつかったけれど、ものすごくやりがいがあって充実していた。
奥さんは、もうビジネスの世界からリタイアしてカリフォルニアでのんびり
しましょう、と言ったけれど、自分にはどうしてもそれはできなかったよ。
なぜって携帯電話やPCで忙しげに仕事をしているビジネスマンを見ると
寂しくて寂しくてしかたなかったから。
私の携帯、私のPCはどこにある!と思ってしまったんだ。
やっぱり全力疾走していて、急に立ち止まるのは無理なんだよ、と。

彼は今の会社での仕事についても熱心に語ってくれた。
今までとまったく違う種類の仕事、全く違う業界の仕事なので勉強することが
たくさんあるんだ。知らないことばかりなので楽しくて楽しくてしかたがない。
この未知の世界を知り、自分の力でこの会社を良くするんだ。
それを考えるとぞくぞくするよ、と。

ワーカホリック(仕事中毒)。
一面を見れば確かにそうかもしれない。
でも、仕事だけじゃない。
彼は特別に頭が切れるとか独創性があるというタイプではなくて、人の和を大切
にしつつ、自分に出来ることを精一杯手を抜かずに誠実に真正面から取り組む人
だった。思い返せば彼の生きる姿勢は若い頃からずっとそんな感じだった。
周りの誰からも「nice gentleman」とrespectされるそんな存在だった。

彼は家庭生活にも、奉仕活動にも、友人たちとのコミュニケーションにも常に
全力投球してきたに違いない。昨夜自宅に招かれて奥さんにも久しぶりにお目
にかかり、彼らの家庭がとても円満で幸せであること、そして社会的にも友人
知人にも恵まれ内面的にもとてもHappyであることを感じ取った。
これは恐るべき量の彼のまっとうな努力の賜物なのだ。
あらゆることに対して前向きに誠実に愚直に全力投球し続けた人生の一つの形が
ここにある、と僕は感じた。
そして気づいたのだ。
長い長い空白があったのに、ぜひ彼に会いたい、と僕が思ったのは彼のそう
いう部分に自分が惹かれていたからだ、と。

今回、彼に会えて本当に良かった。
彼は僕の人生のmentor(導師)の一人なのかもしれない。
いろいろなことを彼からもっと学びたい。
改めてそう思った。