ニートって言うな!
以前、記事で少しだけ取り上げた「ニートって言うな!」を興味深く読了した。
内容そのものは、著者の一人である本田氏が書いている序文のこの部分に語り
尽くされている感がある。
【引用始まり】 ---
「ニート」言説は1990年代半ば以降ほぼ10年間の長きにわたり悪化の
一途をたどった若年雇用問題の咎を、労働需要側や日本の若年労働市場
の特殊性にではなく若者自身とその家族に負わせ、若者に対する治療・
矯正に問題解決の道を求めている。
「ニート」は、忌むべき存在、醜く堕落した存在、病んだ弱い存在として
丹念に描き出される。「ニート」は可能な限り水増しされ、互いに異質な
存在をすべて放り込んだ形でその人口規模が推計される。「ニート」は、
若者全般に対する違和感や不安をおどろおどろしく煽り立てるための、
格好の言葉として用いられる。
「ニート」はやがて、本来の定義を離れてあらゆる「駄目なもの」を象徴
する言葉として社会に蔓延する。
こうした「ニート」言説のせいで、冷静で客観的な状況分析と、真に
有効な対策の構想は立ち後れている。
【引用終わり】 ---
この書の第一部では、本田氏は、ニートと分類される人達の中にも将来の就労
希望をもちつつも現在求職をしていない(病気やけがや勉強等で、現在求職活動
をできない人を含む)人たちが多く含まれていること、元々就労希望を持たない
人は昔から社会の中に一定の割合で存在し続けており、ここ10年を見ても全く
増えていないこと、それに比べ若年失業者とフリーターはこの10年で約2倍に
増えていることを統計をベースに立証する。
つまり「ニート言説」においては「引きこもり」のイメージが若年者層にかぶせ
られ「今の若者はやる気も生きる気概もない。社会から逃げているから就職も
できないのだ」という、統計的事実と相反するスリカエが行われることになった
のだ。
ナチス・ファシズム時代のユダヤ人に対して行われたような「『異質なもの』と
してのレッテル貼りとそれへの社会的・集団的憎悪」のメカニズムについては、
第二部の著者、内藤氏の分析が非常に詳しく読ませるものだ。
一部のみ引用するのは難しいのでこの第二部のサブタイトルからいくつか抜きが
きしてみよう。
・青少年の殺人は増えているのか
・強姦のドラスティックな減少
・先行ヒット商品「パラサイト」「ひきこもり」
・「心の問題」にすり替えられるニート問題
・大衆の憎悪とメディアの相互誘導
・年長者の不全感が若者に取り憑く
・青少年ネガティブキャンペーンを政治が利用する
このサブタイトルを読むだけで、ある程度内容はご理解いただけるのでは?と
想像するが、説得力のある論なので是非この本を読んでいただきたいと思う。
(ただ、最後の「自由な社会とはいかなるものか」という章については、僕は
内藤氏の論にまったく同意しない)
そして最後の第三部の著者、後藤氏はこういった「ニート言説」がどのように
社会に登場し発展してきたのか、膨大な資料を引き合いに出しながら精密に論証
している。この部分は圧巻でよくぞここまでやったものだ、と感嘆を禁じ得なか
った。そして僕は、この部の著者の後藤氏が現役の大学生であるということを知
った時、さらにびっくりした(びっくりするのは若い人達に対して失礼なことだ
とは承知しているが)。いや、凄い大学生もいたものだ ^^;
脳天気に「今の若いヤツは・・」と気炎をあげている馬鹿年長者に、後藤氏の
ような精密な文章が書けるとは到底思えない(笑)
さて、最後に僕の雑感を書いておきたい。
「ニート言説」は社会の憎悪のメカニズムにうまく乗ることで、国民の中に
『若者いじめ』の気分を醸成した。
それによって一番得をしたのは誰か。
もちろん、無責任なマスコミは「ニート」を叩く文章を書き散らすことで雑誌や
本の売り上げを増やし、儲けたことだろう。
しかし、もっと得をしたのは政府だ。
なぜなら、本来は政府が真摯に取り組むべき非常に困難な労働政策問題が、勝手
に『根性のない若者の自己責任』化してくれたのだから。今のところ、若年者
失業問題で政府を責める言説は「ニート言説」に比べて遙かに少ない。
政府も厚生労働省も陰でホクホク顔だろう。
今の日本だって、一つ間違ったらフランスの騒動と同じような事態になっても
全く不思議ないのだから。
- 作者: 本田由紀,内藤朝雄,後藤和智
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