風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

歴史の継ぎ手

日曜日、母と妹と一緒に祖父母の墓参りと叔父のお見舞いに行った。
お墓も叔父の入院している病院も、僕の家から鉄道で2時間弱かかる。

お墓に参るのも久しぶりだ。
母と妹が丁寧に草を取り掃除をして花を供える。
お墓は里山の中にあり、見下ろす盆地にはうっすらと霧がたなびいている。
あちこちにたわわに実った柿の木。
畑いっぱいの秋なす。
とんびが空高く鳴きながら飛んでいる。
里山の秋。
静寂の中に僕の祖父母は眠っている。

叔父は市民病院の一室で横になっていた。
もう脳に転移していて長くない、という。
ろれつが回らず、意識も混濁していると聞いていた。

ベッドの横に僕が立って話しかけると、叔父はかっと目を見開いた。
無理に頭を枕から起こそうとし、ろれつの回らない口で必死で僕に話しかける。
切れ切れに単語がなんとか聞き取れた。
「おまえは・・」
「・・・跡取り・・・」
「しっかり・・」
「・・頑張れ・・・」
叔父は跡取りとしての僕に「頼むぞ。しっかりしろ!」と訴えたかったのだ。
僕は「大丈夫です。僕は頑張りますから、どうぞ心配しないで下さい」と答えた。

叔父は自分の病気を知っていて、早くから事業の整理を同業者に頼んだりいろいろ
と手を打っていたとのことだった。「ブッデンブローク家〜」にもあったように、
若い一族の者に後を託し、血の一部として永遠に生きつづけたい、という希望は、
人間にとってごく自然なことだろうと思う。
それは、自分自身が歳を取ってみないとわからないことなのだ。
きっと僕もそう思うのだろう。

自分は一人ではないのだ、と思った。
僕は、脈々と引き継がれてきた一族の歴史の「継ぎ手」でもあるのだ。
生まれてはじめて、そんな風に思った。