風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

英語と思考(3)

紗々美さんの呼びかけに応じて始めた「Schoolyards to Skylines」の翻訳をしていて
改めて思ったのは、翻訳作業の本質的な難しさは「英語を読んで意味を理解する」
ところにあるのではなく「読みとった概念を適切な日本語にすること」だということだ。

今回頂いた原稿は難しい英語で書かれているわけではなく、読めば意味は比較的簡単に
くみ取ることができる。が、問題はそこからで、読みとった意味(=概念)を日本語に
するところが難しい。
僕の日本語の作文能力の問題なのかもしれないが。
こういう作業をやってみると、頭の中の概念は言語で厳密に構成されているのではなく、
もっと曖昧なイメージであることがわかる。その曖昧な存在を「適切な書きことば」に
置き換えるのが難しいのだ。

英語と思考(2)で書いたように日本語と英語の言語構造の違いは大きい。
読んで理解するだけなら、英語を読みとった順番に概念を上乗せしていけばいいのだが、
きちんと日本語化しようと思うと上乗せして積み上げた概念を一旦ひっくり返して、
日本語の文法に沿って順序立てて書きなおす必要がある。
これがなかなか面倒臭い作業なのである。

このやっかいさのもう一つの原因は「英単語の意味」が「日本語の単語の意味」と
イコールでないところにあるようにも思う。辞書を見ると「英語の単語」=「日本語の
単語」という表記なのでなんだか一対一の対応ののように思ってしまうけれど、
現実にはそんなことはあり得ない。「英単語の概念」>「日本語の単語の概念」
だったり、あるいは逆だったりするし、ニュアンスまで含めるとぴったりの単語
など存在しないのではないか?
なので「この単語は日本語では適当な単語が見つからない」と呻吟する事態に遭遇
することも多々あるのだ。

まぁそんなことを考えると、機械翻訳がいつまで経ってもまともにならないのも
むべなるかな、である。
外国語の翻訳というのは本当に難しいものだ。