風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

南国の誘惑

最近、仕事が忙しくて本を読むのがいささか億劫になっている。
帰宅しても、もうエネルギーが残っていないのだ。
で、軽い読み物をと思って池澤夏樹の「インパラは転ばない」を読んでいたら
こういうくだりにぶつかった。

われわれが住んでいる温帯圏では、匂いというのは時おりの体験にすぎない。
道を歩いていて木蓮の匂いに遭遇したり、風に乗ってくる潮の香りの中を通過
したら、それは幸運だと思わなくてはならない。
 しかし熱帯では、空気がそのまま匂いだ。
人のまわりにあるすべてのものが芳香を放っている。パペーテでも、スヴァでも、
アガーニャでも、四月以降なら那覇でさえ、大気それ自体がかぐわしい。
それに気がつくのはまず空港に着いた時で、タラップを降りる一段ごとに、
湿った暑い空気にたっぷりと混じった芳香が肺の中に浸透して、ああ、熱帯に
来たと思わせる。それは何度くりかえしても感動的な体験だ。

ああそうだ、そうだよね、と記憶が蘇る。
台北でも、シンガポールでも、香港でも、ジャカルタでも、サンパウロでも、南国
ではどこでも特有の濃厚な独特の匂いがした。
もちろん北国には北国の匂いがあるはずなのだが、、

コペンハーゲン
ヘルシンキ
オスロ
エディンバラ

行った季節にもよるのだろうけれど、僕には匂いの記憶は全く欠落している。

もうすぐ沖縄に行く。
雨だろうと晴だろうと、きっと湿潤で暑い亜熱帯の大気が南国の匂いと共に僕を
迎えてくれるだろう。
その大気を吸って僕は体も心も熱帯モードになるに違いない。
海の色を眺めるのも楽しみだ。
グアム島の南側に浮かぶココス島で見た海の色は今でも覚えている。
本当のエメラルドグリーン。
本当のマリンブルー。
もう20年も前のことだけれど、鮮烈な記憶だ。

そうだ。
この時、僕はココス島ハレー彗星を見に行ったのでした。
(当時望遠鏡を持ち込んで撮影したハレー彗星の写真です)