風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

大いなる幻影

この映画は第一次大戦のドイツ捕虜収容所からの脱出を企てる3人のフランス軍人とドイツ軍人をめぐる人間ドラマである。最初「あの『大脱走』の元ネタはこれか」とか思って見ていたのだが、途中からすぐそんな底の浅いものではないことがわかった。古典と呼ばれる文学作品がそうであるように、この映画は恐ろしく重層的かつポリフォニックなのだ。

反戦メッセージが込められているのか?と言えば然り、国籍を超えた人間性への信頼が描かれているのか?と言えば然り、しかしこれらは通奏低音としてこの映画全編に流れているものの決してそれだけではない。階級に対する惜別と皮肉が込められているのか?と言えばそれも然り、といったように。だからきっとこの映画は見る人によってきっといろいろな感想が出てくるはずだ。ある人は「大脱走に比べてテンポ感がなくて面白くない脱走モノ」というだろうし、ある人は「反戦映画だ」というだろうし、ある人は「失われた愛の映画だ」と言うだろう。

では、僕にとっては何が一番印象的だったか?
ドイツの捕虜収容所の所長が捕虜で一人のフランス人の将校を特別に丁重に扱う。フランス将校が聞く。「なぜ私だけ特別なのですか?他の皆も同じ優秀なフランス軍人です」。所長が言う。「私とあなたは同じ貴族階級の人間です。彼らとは違う。この戦争がこの先どうなるかはわからないが、我々貴族階級は終わりです。それを残念に思いませんか?」と。仲間の(労働者階級とブルジョア階級出身の)将校の脱走を手伝うために貴族階級の将校は所長に撃たれ瀕死の重傷を負う。死の床で彼は所長に言う「私は終わりです。でも、この戦争で戦死できる私の方が幸せだ」。所長は無念の表情でつぶやく「そう。私はこれからも甲斐のない人生を生き続けなくてはならない」と。

これだけではなくこの映画はあらゆる細部で『滅びゆく貴族性(aristocracy)』を惜別の思いを込めて描いている。貴族階級社会というものが存在したヨーロッパならではの映画なのだろう。

# 見たのは数年前ですが、とても面白かったと記憶しているので紹介します ^^

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