風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

スローン・デジタル・スカイ・サーベイ

久しぶりに天文雑誌を眺めていたら相当前から計画されていたスローン・デジ
タル・スカイ・サーベイ(SDSS)が既に稼働しているとのこと。
とうとうそういう時代になったのか、という大きな感慨を持った。

などと書かれても、天文ファンでない方にはさっぱり訳がわからない話だろうと
思うので簡単に説明する。このプロジェクトはアメリカ、日本、ドイツの種々の
研究機関が協力して行っているもので、一言で言うと「深宇宙の地図」を作る
プロジェクトだ。「地図」って「星図」のこと?と思われる方もいるかもしれ
ませんが、実は星図(簡略化された星座図もそうですが)は夜空の星の座標は
示しているが、その星までの「距離」は記していないのです。もっとも肉眼で
見えるような我々の銀河系内の星々はまずまずその距離などはわかっていて、
その気になれば距離まで含めた三次元の立体地図を作るのはさほど難しいこと
ではない。

今回のSDSSのターゲットは、星ではない。
ターゲットは、遠くの銀河(小宇宙)とクエーサーだ。
恐ろしく暗くて観測困難な遠い銀河とクエーサーの宇宙の中での分布とその性質
(スペクトル、明るさ)を、現代技術を尽くして広い範囲で、かつ遠いところ
まで一網打尽に測定しよう、というのが今回のSDSSの目的だ。

では、いったい何のためにそんな調査をしているのか?
それは宇宙の起源と進化を調べるためだ。
SDSSの先立ついくつかのサーベイによって、宇宙には銀河団クエーサー
密集している領域とそうでない領域(ボイドと呼ばれる)があることがわかって
いる。SDSSはこれをより深く広い宇宙の領域について観測している。現代
宇宙論はビッグバンで始まった宇宙がSDSSで測定されたような三次元構造を
持つことを、きちんと説明できなくてはならない。エネルギー渦巻く混沌だった
宇宙がどうして現在の形に進化したかを解明しようとする宇宙進化論の諸説は、
大変面白いものだ。

それとはまったく別にSDSSについて興味深いのは、プロジェクトで測定された
観測データ(天体の画像と明るさ、スペクトル)が、インターネット上で無料で
公開されていることだ。ある天文学者が「これは天文学民主化だ!」と叫んだ
とのことだが、確かに実に画期的なことだと思う。

これまで、宇宙論の仮説を持つ人がそれを立証するためのデータを入手することは
極端に困難だった。大望遠鏡を使って実際に観測できるのはごく限られた一部の
研究者のみだったのだから。それが今はインターネットにさえつながれば誰でも
(小学生でも)SDSSのデータを自在に取りだして解析できる。事実、まだ
初期データしか公開されていないのに、既にそのデータを使って400以上の論文
が書かれているのだ。本当にすばらしい時代になったものだと思う。

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