風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

H.M.S. Yurisees

邦題名が「女王陛下のユリシーズ号」という小説である。しかし「H.M.S.
(Her Magestic Ship)」というのはイギリス海軍の軍艦の名前には全てつく
尊称であるので、正しくは「英国軍艦ユリシーズ」というべきであろう。

ともあれ、この小説、海洋冒険小説というか戦争小説というかそういうものに
分類されるのであるが、僕を勇気づけてくれる一冊だ。時代は第二次世界大戦
ユリシーズという英国の巡洋艦がタンカーや物資輸送船を護衛しながら、北海
から北極海を経て英国からソ連まで航海するというものだが、その間に襲い
かかる苦難は凄まじいものがある。ドイツ軍の攻撃、寒さ、反乱、嵐、故障
等々、そして最後は、艦長も司令官も死んでしまいユリシーズは撃沈されて
しまうという悲惨な話だ。おまけにこの作戦そのものが、実はドイツ軍の戦艦
をおびき出す為の囮作戦にすぎなかった、というおまけまでつく。
ユリシーズ号の人々は「犬死」したというわけだ。

ではなぜそんな物語が僕に勇気をくれるのか?
それはこの物語の登場人物たちの行動による。
どんな苦境でもユーモアの最後の一片を失わない人々、ひどい目にあいつづけ、
さらにその上に待ち受けるのがさらなる苦難であるとわかっていても、克己心
と誇りを保ちつつ自分の責務を果たす人々、自分の死が何の価値もないことを
知りつつも最後まで持ち場に踏みとどまって職務をまっとうする人々。
そんな人々の群像が僕の心を打つ。

戦争に限らない。
この社会でも、多くの人たちが泣き言も言わず黙々と責務を果たしている。
その大部分に待ち受けるのは「社会的な犬死」であっても、だ。
なるほど、これは小説にすぎないかもしれない。
しかし、僕もなれるものならユリシーズ号の艦長のような男でありたいと
思うのだ。