風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

戦場のピアニスト

戦場のピアニスト」を昨夜TVでやっていたので見た。
いい前評判ばかり聞いていたので、大変に期待して見たのだが、
うーん、そんなに素晴らしい映画なんでしょうか。

ピアニストであるシュピルマンが主人公ではあるけれども、この映画
の主題はポーランドでのユダヤ人迫害だ。ワルシャワでのゲットー生
活、強制労働と死、強制収容所への送還(主人公は行かない)、ワル
シャワ蜂起といった大戦中のポーランドユダヤ人に対して行われた
迫害がリアルに淡々と描写されてゆく。
それは静かな描写であるが故に、確かに真に迫るものがある。

シュピルマンはいろいろな人たちに助けられてこの世の地獄を生き抜
いて行く。市井の人たち、地下組織の人たち、彼と旧知のナチスに加
担する警察官、最後に演奏を聴いて食料を運んでくれたドイツ人将校
、、ところがそれらの人たちは皮肉なことにあっけないほど殺されて
ゆく(それも幾人かはシュピルマンを助けたが故に、だ)。シュピル
マンは彼らの死を代償に得た人生を淡々と生き、戦後もピアニストと
して余生を全うしたそうだ。
このあたりは実話に基づいているだけあって、実人生の皮肉さ、やり
きれなさをを感じさせられる部分だ。

たた、あまりにも筋立てが淡々としているし、主人公がピアニストで
ある必然性もない。ナチスによるユダヤ人迫害の事実を本やドキュメ
ンタリーフィルムで既に知っている人にとっては、どうにも物足りなく
思うのではないだろうか?。もちろん、何もそういう事実を知らない
人に新たに知って貰う、という意味はあるのでしょうが、それにして
も新味がないことは確かだ。

映画は、淡々と事実を伝えるだけでは所詮ドキュメンタリーフィルム
に敵わないのではないだろうか。わざわざ映画の形を取ってドキュメン
タリーでは伝えられないプラスアルファの「何か」を観客に伝えよう
とした以上、もう少しその「何か」に工夫があっても良かったのでは、
と思えてならない。
それは、まさに音楽を演奏するときと同じだ。
ちょうど「楽譜」があっても、演奏者によってその曲が内包する
「何か」が引き出され、より観客の胸に伝わるようになるように。

この映画は、良い映画としての要素を持っていながら不発に終わって
しまっている。
それが僕の率直な感想だ。