柳の花
場所は中国東北部のハルピンという街。
一体何だろう、とあっけにとられた。
この時の出張はハードだった。
まず上海へ、さらに北京、大連と移動して最後がこのハルピンだった。
大連からハルピンまでの飛行機は旧ソ連製でおそろしく乗り心地が悪か
った。それでも僕はこの街については少し思い入れがあった。
旧満州国の要衝の街。ロシア人、中国人、日本人がかつては混在した
ソ連と満州国の国境近くの重要拠点。
石井部隊が中国人に対して残虐非道な人体実験を行った街。
空港からホテルまでの道。
車窓から見ると、真っ平らな風景。
道路の両脇には背の高い樹木が植えられており、一瞬、フランスにいる
ような錯覚を覚えてしまう。
広く豊かな穀倉地帯。
戦前の日本がこの土地を欲しがったのがわかる気がした。
本当は歴史をたどって、記念館や建物などを見て歩きたかった。
しかしスケジュールはそれを許さない。
食事が特別美味しかったわけではない。
とりたてて何か見るものがあるわけではない。
居心地はむしろ悪かった。
それでも、なにか気持ちが残ったままこの地を後にした。
いつか再訪してみたい街、ハルピン。
そうそう。
空から降っていたのは「柳の花」だそうだ。
日本では見られない中国の風物詩。
それを、偶然、僕は目にしたのだった。