風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

自立と孤立

欧米人の夫婦は、歳をとっても歯の浮くようなセリフを言い合い、
思い切り甘え合っているカップルが多い。
いい歳をして、と、僕などはいささか呆れてしまうのだが。
しかし、これは彼らにとって必要不可欠な事なのだ。
もちろん、ずっと恋をしているわけじゃないのです。(一部に誤解
があるようですが)

彼らの社会は、日本以上に精神的な自立を求められる社会だ。
自らの意見、自らの確固たるスタンスを持った「屹立する個」がつば
ぜり合いを演じる社会で、個として生きるには他者に依存することが
必要なのは当然だと思う。だからこそ、演技とも思えるようなオーバ
ー・アクションを交えつつ、夫婦間で相互の依存関係を過剰なまでに
明確に示そうとしているのだ。

河合隼雄は「自立には、深い依存が不可欠だ」と書いている。
僕も、まったく同感だ。
人は、一人きりでは生きられない弱い存在だ。
他者と深くしっかりした依存関係を築かない限り、精神的な自立など
望むべくもない。欧米においては精神的な依存関係の柱を「夫婦関係」
に置こう、という黙契が社会にあると思える。

日本の場合はどうか。
いささか事情が異なるのは、戦前までは欧米のように個の自立が要求
されていなかった、という点だ。個の自立が曖昧な集団型の社会に
おいて、人は、ゆるやかで浅い依存関係をあちこち(大家族、親族、
地域共同体等)と結びつつ、精神的な収支を合わせてきた。
それはそれで、うまく機能していたのだろうと思う。

しかしながら、現代日本社会では昔のような精神的な収支を合わせる
ことが難しくなっている。欧米並に「個の自立」は求められている
けれど、さて、必要な相互依存関係はどこに築けばいいのだろう?
かつてのような大家族も地域共同体も崩壊しているのだが、さりとて、
欧米のようにはっきりと「夫婦関係」に焦点を置いて、しっかりした
相互依存を築こうという方向にも進んでいないようだ。
もちろん、非婚率があがっている今日この頃、配偶者のみが選択肢
ではないにせよ、安定した相互依存を築くのに一番身近で適当な
候補者であることは間違いないと思うのだが。

# もう一つ、親子関係、というのがあるが、相互依存の形を誤ると
# 大変な悲劇が起きることは、改めて指摘するまでもないだろう。

人が生きるには他者への依存が必要不可欠であること。
深くて安定した依存関係を成立させてこそ、自我な安定や個の自立
がなされること。
これらはとても重要な知っておくべきことだ。

依存なしの自立は、どんなに強がっても「孤立」にすぎない。
「孤立」に耐えられるほど人間は強くない。
『私は、精神的に自立したい』?
では、一体『誰と』深い相互依存関係を結ぶのか?
それこそが、一番大切なポイントかもしれない。