風の歌が聞こえますか

僕に聞こえてくる風の歌を綴ります。

スグラベンザンデ

スグラベンザンデは北海に面した、オランダの小さな町。
僕はホテルのバルコニーに出て、夕日が沈むのを眺めていた。
季節は晩夏だったと思う。

緯度の高いオランダでは、夕日は、日本よりずっと浅い角度で
斜めにゆっくりゆっくり、霞がかかったような空を下ってゆく。
砂浜には、そぞろ歩くひとたちの長い長い影がのびている。
時間がたっても、たっても、夕日はなかなか海に落ちない。
不思議な夢のような、時間が止まったような、そんな光景だった。

ここから先が僕の本当の記憶なのか、夢の中のことだったのか
判然としない。どうも夢の中、のような気もするのだ。
でも、記憶はとても鮮明で、かつ印象深いので書いてみる。

夕日が沈んだブルーグレーの砂浜を、僕はそぞろ歩いている。
古いタイヤ、流木などが点々としている。
歩くうちに、古い木でできた小屋があり、中から光が漏れている。
僕はつい、その光に引き寄せられるように戸口に近づいて中を
覗いてみた。

ラフな格好をした沢山のオランダ人達が杯を片手にテーブルを
囲んでいる。テーブルにはごく質素な料理と酒が置いてある。
これから乾杯しようとしているようだった。
しかし、彼らは僕をちょっと見やるだけで、何も言わない。
黄色い電灯の光、彼らが着ていたチェック柄のシャツ、など、記憶
にとても鮮明に焼き付いている。

が、その後、僕はどうしたのだろう?
まったく記憶がとぎれているところをみると、やはり夢だったの
だろうか。
幻のような、夢のような、ふしぎな風景。