白い夜
目が覚めた。
ぶ厚いカーテンの隙間から明るい光が射しこんでいる。
別に変なことじゃあない。
それが夜の2時過ぎである、という点を除けば。
これが、白夜なのだ。
ここはフィンランドの首都ヘルシンキからさらにずっと北の町。
北緯63°
僕が出張で訪れた中でも一番北に位置する場所だ。
北極圏(66°30')まであとほんのわずか。
カーテンの隙間から外を覗いてみる。
僕のホテルは駅前にあって、部屋が一階なので通りの様子がよく見える。
空は奇妙に蒼暗く、あたりは明るい。
駅前の通りなのに人っ子一人いない。
その奇妙さ、不気味さ。
不思議な空気感。
東山魁夷のリトグラフ『白夜』を思い出した。
まさにあの空気感、だ。
6月のフィンランド。
僕はこの出張の自由時間で、トナカイのステーキを食べ、フィヨルドの
クルーズに行った。でも何より印象に残っているのは、誰もいない駅前
の不思議な風景だ。
白い夜。
あの奇妙な空気感。